ラストサバイバー【人工島「楽園」におけるデスゲーム＆サバイバル】

第59話 リョウタの手記

デスゲーム開始３４日目　再修業５日目

カルラから教えてもらった防御と回避を使いながら組手を行った。

攻撃される方法と箇所を見極め、適切な受け技を選択しなければならない。受け技は主に３つで構成される。上段受け・下段受け・回し受けだ。受け技で大事なのは、チカラで無理に対抗しないこと。相手のチカラを『流す』ことが重要となる。

受け技で相手の体勢を崩したら攻撃のチャンス。だが、カルラの体幹バランスは凄まじく、打撃を流しても体勢がブレることはない。今日もコテンパンに殴られた。

しかし、そのおかげで防御の重要性がよく分かった。

防御をしっかりすれば、受けるダメージが少なくなり、結果的に【自己治癒】発動の回数も減る。今日初めて、組手の時間が５分を超えた。これも成長と考えよう。

カルラからも「防御の基礎はできつつあるから、今日から蹴りの練習をしよう」と言われた。蹴りは突きよりも３倍の威力があるらしい。絶対に習得してやる。

日々の柔軟で関節が相当柔らかくなっている。そういえば、肩こりがいつの間にか無くなっているな。柔軟と運動のおかげだろうか？

しかしランニングと筋トレがキツイ。

ランニングは湖の周りを３０キロ走り続ける。筋トレは腕立て・拳立て・腹筋・背筋・スクワット、１００回を３セット。午前のトレーニングが終わる頃には動けなくなる。

現在、休憩中。さあ、蹴りを教えてもらうか。

デスゲーム開始３９日目　再修業１０日目

蹴りを覚えただけで、こんなにも攻撃手段が増えるものなのか！

まず間合いが伸びた。カルラも俺の蹴りを警戒し、今までよりも慎重になっている。今日初めて前蹴りを撃ち込むことができた。まあ、その後、蹴りを連撃されて気を失ったが…。

蹴りの種類も主に３種類。前蹴り・横蹴り・回し蹴りだ。格闘技の試合でよく見るのは回し蹴り。ハイキック・ミドルキック・ローキックは空手だと、上段回し蹴り・中段回し蹴り・下段回し蹴りと表現される。蹴りでも重要なのは、腰を入れること。要は体重を乗せないと威力は出ない。

意外だったのは、前蹴りの有効性の高さだ。相手と距離を置きたい時に使えるし、鳩尾に撃ち込めば大ダメージを与えることができるだろう。

前蹴りをクリーンヒットされて腹が立ったのか、カルラが知らない蹴りを撃ってきた。三日月蹴りと胴回し回転蹴りだ。三日月蹴りは前蹴りと回し蹴りの中間の軌道で、肝臓を狙う。胴回し回転蹴りは空中で一回転している間に踵で顔を狙う技だ。ていうか、教えてくれよ…。

「別に隠していたわけじゃないわよ。それに実戦で文句を言うのは筋違いだから」

と言っていたが、目を逸らしていた。その後、渋々と教えてくれたけど。

筋トレとランニングには慣れてきた。能力による超回復のおかげだ。だいぶ筋肉がついたと思う。もしもルナとレナが生きていたら、今の俺を見て何て言うだろうか。う～ん、多分「気持ち悪い」だろうな。

今日から肘・手刀・貫き手の攻撃が稽古に追加される。楽しみだ。

デスゲーム開始４４日目　再修業１５日目

カルラの動きが見切れるようになってきた！

今までほとんど防戦一方だったけど、最近は受けてから攻撃を心掛けている。近距離なら肘、中距離なら正拳突き、遠距離なら蹴り。勿論、まだまだカルラの方が強い。しかし、これはもう、「組手」と呼べるんじゃないか？

カルラの一撃必殺に対して、俺の【自己治癒】は天敵のようなものかもしれない。なにせ致命傷レベルの打撃を喰らっても、修復できてしまうのだから。カルラは苦々しげな顔をしていたな。

２週間以上、毎日能力を酷使したおかげで、使用時間・回数ともに伸びてきている。ここ数日は、眩暈や倦怠感といった副作用も起きていない。

今日初めて気絶せずに組手を終えることができた。

明日から封印していたカウンターを組手に取り入れてみよう。

気分を良くしていたら、ランニングと筋トレのメニューを２倍に増やされた…。いや、確かに慣れていたけどさぁ。いきなり２倍はなくないか！？抗議したら…

「あたしを守るんじゃなかったの？あたしより弱い男が守れるわけないじゃない」

と笑顔で返された。

くそ！あのセリフを言ってから、なんか手玉に取られている気がする。

午後に入ってからも筋トレは終わらなかった。でも最後までやりきっただけで凄いことだと思う。この島に来るまでは考えられなかった。久しぶりに筋肉痛が凄まじいことになりそうだ。

今日は息吹(いぶき)を習った。「コオオオ」と丹田にチカラを入れながら、肺の空気を全て出す呼吸法。息を整える時に効果があるらしい。

デスゲーム開始４９日目　再修業２０日目

ついに、カルラから一本取れた！！

信じられない！

カルラの正拳突きを下段受けで流すと同時に、カウンターの正拳突きを鳩尾に入れることができた。タイミングはどんぴしゃり。急所攻撃とカウンターを組み合わせれば、流石のカルラでも倒れる。

一度膝をついたカルラだったけど、その後【脳内麻薬生成】の能力で反撃してきた。

結論から言うと、１０倍返しされた。

パワーもスピードも今までとは比較にならない。更には痛みを感じないバーサーカーみたいになる。相当ハイになるみたいで、高笑いしながら繰り出される攻撃は恐怖だった。

６日ぶりに気絶。

ガルシアはこのカルラより強いのか。恐らくは一条も。

だが越えてやる！！

目が覚めてカルラを見ると、顔が赤かった。どうしたのか聞いても…

「なんでもない！」

と言われてしまう。年頃の女の子は難しいな…。いや、違う。俺はカルラの気持ちに気付いている。あれだけ、あからさまだと気付くよ。俺も３０歳、それなりに人生経験はしてきている。

このままじゃいけないのは分かっている。

でも、カルラとコタローとの生活が居心地よくて、このままでもいいんじゃないかって思ってしまう。だがそれは先延ばしにしているだけ。俺の気持ちは決まっているだろ？

どうしても一線を越えることを躊躇ってしまう。

デスゲームはまだ続いているのだから。この日々が永遠に続くことは無い。もしかしたら明日にでもファイナルミッションが始まるかもしれない。カルラと一緒にいられるのは、今日が最後かもしれない。

男らしくないな…。

失いたくない。カルラもこの日々も。

今日から稽古は今までの技を総合的にやることになった。

修行も終盤だ。

デスゲーム開始５６日目　再修業２７日目

能力解放したカルラから、やっとのことで一本取れた。

ついに俺の戦闘スタイルが確立したな。まだカルラの方が強いけど。

１日の稽古を終わらせた後、カルラが空手の型を見せてくれた。

観空大（かんくうだい）

一連の流れ、技、彼女、全てが美しかった。

デスゲーム開始５７日目　再修業２８日目

起きたらカルラがいない。コタローもだ。

焦燥感に駆られる俺のタブレットにチャットアプリでメッセージが入った。

【月宮カルラ様はお預かりしています。旧市街地までお越しください。　黒崎アイ】