第45話 サードミッション③1回戦終了

「城戸君…」


初戦を突破し、リングを出たリョウタに声が掛けられた。

困惑した表情をした矢野だった。リョウタが挨拶する。


「どうも、矢野さん。お久しぶりです」


「初戦突破おめでとう、とは素直に言えないな。仲間である飯田君に大怪我を負わせたのだからね、君は」


矢野の手には大きなボストンバッグが握られている。セカンドミッションで獲得したレアアイテム・医療器具一式が入っているのだろう。


サングラスをかけた運営の黒スーツたちが、担架で飯田をリングから運び出してきた。飯田に意識は無く、顎は砕け、鼻は曲がり、口からは血を流している。2人の前を通過し、リングから離れた場所で寝かせられた。


「…あそこまでやる必要があったのかね?最後の一撃を見舞う前に、飯田君は戦意を喪失していたように見えたが」


糾弾する声で矢野が言った。


「矢野さんは殺されるかもしれない戦いで、いちいち相手に戦意が残っているかを聞くんですか?」


淡々とリョウタが答える。矢野はそのセリフに唖然としている。


「そんな余裕なんてありませんよ。そろそろ矢野さんも気付いた方がいい。この場所、いや、この島では強くないと死ぬんです。ここでは、それが全てだ」


「…変わったな、城戸君。まるで別人のようだよ。…飯田君を手当するので、これで失礼する」


矢野が去ったと同時に、別の人間が近づいてきた。黒崎アイが。


「リョウタさん、随分と強くなられましたね」


初めて会った時のように、アイは微笑みを浮かべていた。

アップで纏められた黒髪と白いワンピース姿。儚げな美女。


「おかげさまでな」


皮肉で返したが、リョウタの鼓動は早まっていた。

恐怖などではない。どす黒い殺意によって。


「ふふっ、そんなに見つめられたら照れてしまいますわ。あなた様がどんなに変わり果てようと、わたくしの想いが変わることはありません。どうかご安心なさってください」


「反吐が出そうだな。お前がやったことの報いは絶対に受けさせる。レナの仇は俺が取る!」


リョウタの宣戦布告にアイはますます笑顔になった。


「わたくしに向けられる感情が何であれ、リョウタさんの心に棲まわせて頂けて感無量です。同じブロックになることができれば―――。あら?」


アイのタブレットからピロンと音が鳴り、アイは画面を見た。


「とても残念です…。わたくしはBブロックとなりました。呼ばれているので、これで失礼いたします。ごきげんよう」


アイは優雅に一礼してリングに向かって行った。


「メンヘラここに極まれり、ね。危ない女…」


リョウタの後ろには、カルラが腕を組んで仁王立ちしていた。


「カルラ…。試合はまだ決まっていないのか?」


「まだよ。だからリョウタの試合を観ていたの。ねえ、いつ飛び膝蹴りを覚えたのよ?教えていないんですけど」


「ああ、初めて会った時のカルラの姿を真似して練習したんだ。自己流になっちゃったけど」


「それをぶっつけ本番で?可愛くない弟子ねー」


そう言いながらも嬉しそうな表情を浮かべるカルラ。


リョウタもようやく初めての実戦という緊張から解放され、3つのリングで行われている試合を見渡してみた。


Aブロックにはシャオ、Bブロックにはアイ、Cブロックにはヤヨイの姿が見える。


全てが気になるカードだが、リョウタの視線はCブロックに釘付けとなった。ヤヨイは女子高生でフィジカル面は低い。異端者であるが、能力は【予知夢】で戦闘では役に立たない。何よりもメンタルまで弱いのだ。とても闘えるとは思えない。


相手は30前後の男だが、見覚えがある。

リョウタは記憶を辿り、思い出した。

病院内にいた穏健派の一人だ。


ヤヨイと対戦相手の男は構えも取らずに見合っている。


そして闘うことなく、決着となった。


「ウチの負けです。認めてくれますか?」


「ああ、認める」


頭上のモニターからファンファーレが鳴り、画面が変わった。


【4:40】


【勝者:ナンバー53】


それを見たリョウタが誰ともなしに呟く。


「なるほどな。派閥内の対戦なら、限定勝利条件を使って無傷でリタイアできるのか…」


「せこい方法よね。見てよ、Aブロックの糸目野郎を。こっちも同じ」


リョウタがAブロックに目を向けると、こちらも戦闘無しでシャオが勝利していた。


まともな闘いとなっているのは、アイのBブロックだけだ。


アイは30代くらいの女性・ナンバー37と対戦していた。女性は金切り声をあげてアイに掴みかかろうとしている。身長はナンバー37の方が大きい。アイを地面に押し倒して勝負を決めるつもりだ。


2分以上経過したが、アイを捕らえることができない。ナンバー37の突進を、アイは軽やかなフットワークで全て躱(かわ)していた。


「はあはあ…。この…、ちょこまかと動くんじゃないわよッ!」


ナンバー37の怒号にも、アイは微笑みを浮かべたままだ。


「このおッ!!」


大声を出して、ようやくアイを掴まえた瞬間だった。


ゴッ!


至近距離から肘を真上に振り上げ、ナンバー37の顎下にクリーンヒット。

ナンバー37は白目を剥いて倒れていった。


鳴り響くファンファーレ。


【2:06】


【勝者:ナンバー4】



試合が消化されていき、カルラの出番が来た。彼女は上段蹴り一撃で相手を昏倒させた。まさに秒殺だった。


カルラはCブロック。同じブロックにならずに済み、リョウタは安堵した。


1回戦も終盤となった頃、Aブロックからサバイバーたちのざわめきが巻き起こった。


その中心にいるのは一条マコト。


(一条と、同じブロック…!!)


ゴクリ…


リョウタは何とか唾を飲みこんだ。

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