第43話 サードミッション①タワービル
デスゲーム開始28日目 午前11時
リョウタは久しぶりに旧市街地に戻ってきていた。サードミッションの集合場所であるタワービルを目指して、カルラとともに歩いている。
リョウタはカルラに聞いてみた。
「ついにサードミッションか。どんなミッションだと思う?」
「さあね。ま、ろくでもないことなのは間違いないわね」
カルラはいつもと変わってないように見えるが、その声色に少しだけ緊張があるのをリョウタは感じ取った。共同生活したリョウタにだけ分かる程度の機微。
(カルラも緊張している。…当たり前だよな。まだ18歳の女の子なんだ)
タワービルは市街地の中心部にある。この街で一番高い建築物であり、その高さは200メートル以上。荒れ果てている街並みの中で唯一真新しい近代的なビルだ。だが入口はシャッターに閉ざされており、「侵入禁止」の張り紙までしてある。
ルールを破った時の結末を知っているサバイバーたちは、近づこうともしなかった場所だ。
開始時刻45分前に2人は集合場所に辿り着いた。
「デカいビルだな。罠を仕掛ける場所はいくらでもありそうだ」
「と思わせておいて、高い場所でのミッションかもね。屋上から落ちたら即死よ」
2人が話しているうちにサバイバーたちが集まり始めた。ファーストミッションから人数が半分以下になっている人々が。矢野に教えてもらった通り、大きく2つの集団に分かれている。穏健派と過激派に。
数は穏健派の方が多い。総勢20数名。しかし10人ほどが包帯を巻いたりして負傷している。総じてナンバーが低いサバイバーが多い。リョウタにとっては古巣であり、馴染み深いメンバーがいる。リーダーである矢野ヒデトシ、ナンバー10の後藤ダイゴ、ナンバー44の篠崎ヤヨイなどだ。他にも挨拶をしたり、雑談した人々の姿も見える。
一方の過激派は10数名。集団の先頭にはリーダーのガルシア・ゴロフキンの姿。その後ろに弟であるナンバー5のロジャー、ナンバー7の如月クレア、ナンバー8のシャオ・ウイリーがいた。クレアのすぐ傍には、ケンジと呼ばれていた金髪の若者もいる。彼らは全員が武闘派であり、ナンバーも高い面子が多い。
残りの10人ほどが単独派になる。群れるのを嫌う一匹狼たちだ。代表格は一条マコト。そして因縁深い黒崎アイもいる。リョウタとカルラは協力関係にあるパートナーだが、派閥としては単独派となる。
少しして、ヤヨイがリョウタに話しかけてきた。
「城戸ちゃんってば、ヒドイよね~。ウチに何も言わずに派閥抜けるなんてさぁ」
「ごめん。言い訳する気も無いよ。酷いヤツと思われてもしょうがない」
リョウタは静かに返した。
「…レナちゃんが死んで、城戸ちゃんもいなくなってさ。結構辛かったよ、ウチ。でも今は泣き言を言ってらんないよね。ミッションが始まるんだから」
「ああ。…死ぬなよ、ヤヨイ」
「うん、城戸ちゃんもねっ」
そうしてヤヨイは矢野たちの元へ帰って行った。
「ふーん、随分と仲がよろしいことで。なに?リョウタってロリコンなの?」
カルラが言葉の冷や水をぶっかけてきた。
「何故そうなる…。カルラ、こんなことで怒るなよ」
「怒ってないわよッ!!」
午後12時
ガガーーという音とともにシャッターが上がっていく。その中はガラス張りとなっており、いくつもの自動ドアがあった。「中に入れ」の合図だ。サバイバーたちが綺麗なエントランスに足を踏み入れていく。
建物の中央部に鈴木ツグルが立っていた。
濃紺のスーツ、茶色の革靴、オールバックにセットされた髪型。いつもの友好的な笑みを浮かべている。鈴木の後ろには、サングラスをかけた黒いスーツ姿の男が6人いる。
鈴木は一礼して話し始めた。
「ご無沙汰しております。皆さんがこの楽園にいらっしゃってから、まもなく1ヶ月となります。ここでの生活には慣れましたでしょうか。気に入って頂けていると何よりなのですが」
白々しいセリフに反応したのは矢野だった。
「君に言っても無駄だとは思うが、聞きたいことがある。セカンドミッション終了後、サバイバー同士の争いがあり数名が命を落とした。由々しき事態だ。ミッションとは関係が無いところで死者が出るのは運営サイドにとってもデメリットだと思うが、そこのところをどう考えているのかね?」
鈴木は数秒思案していたが、何でもないことのように答えた。
「ふうむ、ナンバー9。分かりませんね。それのどこが我々にとってデメリットなのでしょう?ミッション外での偶発的な衝突が問題だと言いたいなら、筋違いもいいところですよ。以前説明したはずです。この救済プログラムのクリア条件は『生き残る』ことだと。そこにミッションは関係ありません。このプログラムの大原則です」
「やはりそうか。…分かった。もういい」
矢野にとっては予測していた通りの答えであった。
自分が生き残るためには、人を殺しても許される。弱肉強食と適者生存が絶対のルールである島なのだ。そこに社会の常識は通用しない。
「ねぇ、この生活いつまで続くのぉ?お肌は荒れるし、髪も痛むしぃ。もぉ嫌になってきちゃったのだけどぉ」
妖艶で男を挑発するような声。クレアだった。
「はは、ナンバー7はお気に召しませんか?」
鈴木には何の変化も無い。少し憮然(ぶぜん)としながらクレアが返した。
「そりゃあねぇ。スマホもSNSも、娯楽がなんにも無いんですもの。せめてミッションの数だけでも教えてくれなあい?」
「機密事項を平然と要求しますね、あなたは。まぁいいでしょう。残るミッションは2つです。それをクリアできれば、皆さんは救済され解放されます」
サバイバーの歓声が次第に大きくなった。
(あと2つ…!それでデスゲームが終わるッ!)
その思いはリョウタだけでは無い。全てのサバイバーが抱いたものだった。
「さて、積もる話もありますが時間です。これよりサードミッションを開始いたします!」
宣言とともに死への行進曲であるクラシック音楽が流れる。
誰もがタブレットに釘付けになる。
画面にはこう記載されてあった。
【ミッション内容:対戦相手を戦闘不能にする試合形式】
【制限時間:5分】
【逸脱行為:武器の使用及び助太刀】
【参加者:48名】
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