第55話
諸々終わって帰り道。
他に方法もなかったとはいえ、やった事と言えば粋がったガキ共相手に一方的に暴力を振るって脅しつけただけである。罪悪感など憶えもしないが、だからと言って後味が言い訳もない。
(やらないよりはマシだったろうが、やった所で不毛な仕事――いや、仕事ですらないか)
こんな事で金を貰えばそれこそ後味が悪くなる。ユリアは礼をすると言っていたが、足がついても面倒なので適当に断って別れた。
「丸一日潰して危ない橋まで渡ってタダ働きだ。頭痛いぜ」
げっそりと呟く。チビ共は気にした様子もなかったが。
「いいじゃないっすか。良い事したんすから」
「そうなのである。あれだけやれば、あの少年もいじめられる事はないのである」
誇らしげに言ってくるが。
「だといいがな。人の性根なんざそう簡単に変わるもんでもねぇ。あの小僧も、小僧をいじめてたガキどももな。だからどうしたって訳でもないが……なんだかなぁって感じだよ」
心配しているわけではない。だが、知り合ってしまったからには、気にするなというのも難しい。
そんなライズをラビーニャは鼻で笑うのだが。
「……なんだよ」
「本当にあなたって、救いようのないお人よしですわねと思って」
「褒めてねぇだろ」
「当たり前でしょう。そこまで気にするなんて、お人よしを通り越して愚か者ですわ」
馬鹿にするのも通り越したか、嘲笑うように言ってくる。
(んな事は俺が一番わかってるんだよ……)
自分自身に嫌気がさして思うのだが。
そんなライズを励ますように、ペコが身体をぶつけてくる。
「なに言ってんすか! 自分達、やるだけの事やったんすから! あいつだって漢を見せたんす! きっと上手くいくっすよ!」
「そうなのである。ライズはくよくよ悩みすぎなのである」
励ます気持ちは嬉しいが、はいそうですかと納得するのは難しい。
「それに、タダ働きじゃありませんわ。あの不良少年達からはきっちり治療費を頂きましたし」
いつの間にそんな事をしていたのか、ラビーニャはニヤリとしながら、ガキの小遣いにしては重そうな皮袋を揺すって見せる。
「流石ラビーニャ、抜け目ないっす!」
「今晩は美味しいご飯が食べれそうなのである!」
チビ共はホクホク顔だが、ライズとしては呆れるばかりだ。
「あのなぁラビーニャ――」
いつもの癖で小言の一つも飛び出しそうになるのだが。
「良いか悪いかはさておいて、散々振り回されたわけですし。このくらい貰ってもバチは当たらないでしょう?」
試すような視線を受けて――溜息を一つ。
思い直してライズは言った。
「それもそうだな」
観念した心地で肩をすくめる。
良い事をしたと言い切るのは難しいが。
それでも、精一杯やれる限りの事はやった。
ならば、そんな自分に褒美の一つも与えてやらねば、それこそ自分が可哀想ではないだろうか。
そんな風に己を慰めて。
「今日はその金でパーッとやるか」
愉快な仲間を引き連れて、馴染みの店へと足を向けるのであった。
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