第15話

 グルフォルの街へは程なく着いた。

 そこそこ大きな都市であるグルフォル、ある程度の医療は期待出来る。

 怪我をした場所がグルフォルと近かったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。


 とはいえ都市ならではの弊害もある。

 街の入り口たる城門には門兵が置かれ人流、物流のチェックが行われている。


 ここで障害になるのは青ミイラだ。

 高額商品ではあるが怪しげな呪具の原料、正規での流通は認められていない。


「堂々としてろ、慌てず騒がず門兵の胸元辺りをぼんやり見ておけ」


 シヌシヌは爆散隊に指示を出すが、ズンズン達にとっては初めての検問。

 体がいう事を聞かず、カクカクと駒送りのような歩き方になってしまう。


「おい、お前ら挙動がおかしいな。荷物を見せろ」


 案の定、シヌシヌ達は目を付けられ門兵が近付いてくる。

 シヌシヌは馬車からヒラリと降り、丁寧に頭を下げた。

 二秒ほど頭を垂れた後、上げた顔はニッコニコだ。


「怪しくなんてありませんよ。どうぞ確認を」


 門兵が荷馬車に更に近付く。

 シヌシヌは二人の門兵とすれ違う瞬間、両手を広げて通せんぼした。

 とんっ、門兵の体とシヌシヌの腕が軽く接触する。


「何のつも……ん?」


 広げた手で進路を塞がれ、怪訝な顔の門兵だが、その手から何かが胸ポケットに入れられた事に気付く。

 門兵達は胸ポケットを確認した後、シヌシヌの顔を見た。

 シヌシヌは変わらずニッコニコだ。


「冗談です。どうぞ荷物を確認してください」


「ふん、そうさせてもらうぞ」


 門兵は荷馬車に側まで来ると、ズンズン達には一瞥もせず荷台のシートをグッと掴む。


 ペラッ、門兵はシートを少しだけめくった。


「よし、もう行っていいぞ」


「ありがとうございます」


 こういう時のために青ミイラを持っているのだ。

 話の分かる門兵で助かる。



「おい、門兵。きちんと荷物を検分したのか?」


 女の声、後から。

 振り返ると白馬、白馬、白馬、白馬、白馬。

 甲冑、甲冑、甲冑、甲冑、甲冑。

 旗、旗、旗、旗、旗。

 かなり大がかりな部隊がそこに。


 門兵は焦った様子。


「え?あ……ポンボン白馬騎士団ご一行様……ご到着は明日では?」


「我々は監査にきたのだ。予告通りに来てなんの意味がある」


 ――ポンボン白馬騎士団……。こいつらが……。


 シヌシヌには聞き覚えがあった。

 中央シュポリに許を置く、貴族の子息を集めた騎士団。

 定期的に地方を周遊し監査、取り締まりを行うのが慣習となっているとかなんとか。

 

 ――貴族様か……。


 先程から発言しているリーダーと思しき女性、十代中盤位だろうか。

 兜から覗く透き通る肌、透き通る髪、貴族だけあって手入れが行き届いている。

 その甲冑には鎖が巻き付いたような装飾、細やかで素材もいい、いかにも高そう、やっぱ貴族。


 名誉騎士団とは聞いていたが、女性が入る事もあるのか……シヌシヌはへーへーへーと思った。


「門兵よ、君達は何のためにいる?いい加減な仕事をするな」


「は!すみません。改めてこやつらの荷を確認します」


「いや、折角だ。私自ら荷を改めさせてもらおう」


 女騎士は白馬からヒラリと降りた。


 ――最悪だ……。


 最悪の展開である。

 何のために賄賂を使ったのか、返してくれって感じ。

 いや、それよりもこれからどう打開すべきか。


 仲間になって呪いの力を発動させる。

 いや相手は貴族騎士団、こんな怪しい一行が仲間として認められる訳がない。

 一暴れして逃げる。

 いや相手は貴族騎士団、敵に回すと厄介この上ない。


「名誉騎士団、おままごと騎士団などと軽んじられるこのポンボン白馬騎士団。しかし私、ハナチャン・マリーローズ・オブ・タンポポの元ではそうはいかん!厳格にやらせてもらう」


 ハナチャンは無遠慮に荷馬車に近付き一気にシートをめくった。


 荷台には藁が敷き詰めてあり、その上には血の滲んだ包帯を巻いて横たわるチィコ。

 念のために青ミイラやカコは藁の下に隠してある。

 確かめられたら終わりだ。


「怪我人か……。通してやれ」


 意外とあっさり、藁の下を確かめられる事なくシヌシヌ達は通行の許可を得た。

 シヌシヌは笑顔でペコペコしながら急ぎすぎないよう、でもなるべく急いで荷馬車を出す。


「おい、今回は特別だ。私、ハナチャンがいるうちは滅多な真似はしない事だ。悪事を働こうとしてもこのハナチャンの目は誤魔化せない」


 へいわかりやした、シヌシヌは笑顔を絶やさず乗り切った。

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