第14話
「ねえこの娘の名前なんていうの?」
チィコはちゃっかり荷台に乗って移動している。
同じ荷台に寝転がるカコをユサユサ揺すりながら荷馬車を運転するシヌシヌに問う。
シヌシヌは答えない。
「ねーねーねー、この娘どうしちゃったの? なんで一緒に旅してるの? 名前は?名前は?名前は?」
シヌシヌは答えない。
「もー、教えてくれなきゃ呼べないじゃん。じゃあ私が名前付けてあげるね。あおいフェイスだから……この娘はアフェ顔ちゃん。よろしくねアフェ顔ちゃん、私の事はチィコって呼んでね」
「…………カコだ」
相手にしないと決めていたシヌシヌだが、思わず口を出してしまう。
「いい名前あるんじゃん。じゃあこれからよろしくねカコちゃん」
――この子供、どこでどうやって置き去りにしたものか
「カコちゃん服のセンスがちょっとアレだねー。どうせシヌシヌが選んだんでしょ。折角可愛い顔してるんだから勿体ないよ。おっきな街に出たら私が選んであげるね」
――言いたい放題言いやがって。悔しい!
シヌシヌは無視して馬車を操る。
――カソの村から離れすぎてはまずい。ここらが潮時かもしれん。可哀想だが次の街に付くまでに置いていこう。
用を足すため一人荷馬車を離れたシヌシヌは決意した。
そのためにはチィコを荷馬車から引き摺り下ろす必要がある。
多少、手荒になるかもしれないがそれが最善のはず。
チィコを強引に荷馬車から下ろし一気に逃げる、これでいい。
引き返せばヒゴの村がある。
彼らならチィコを快く保護してくれるだろう。
シヌシヌは戻ると、事を進めるべく荷馬車に……荷馬車に……あれ?僕の荷馬車は?
そこには荷馬車はなく、代わりに爆散隊がボケっと突っ立っている。
「へへへへ、やっちゃいました」
盗まれたらしい。
旅人に道を聞かれ四人揃って教えている隙を突かれ、そいつの仲間に荷馬車を持ち去られたそう。
旅人、もとい盗人もどこかに消えてしまったそう。
人助けの快感を覚えてしまったズンズン達は、ついつい親身になって道を教えてしまったそう。
「このっ……クソ間抜けが!!バカ!死ね!」
シヌシヌは声を荒げた。
「おおお、すげえ」
馬車を盗んだ盗人は積み荷を確認して驚いた。
高級品の青ミイラがこれでもかと積まれている。
「大当たりじゃねえかよ、おい。ん?なんだこりゃ」
荷馬車には青ミイラと共に、妙に肌の青い痩せた女が転がっている。
「気味わりいな……。まあでもマニアには売れるかな」
盗人はホクホクの表情でほくそ笑んだ。
「おい、馬車返せよ」
ぜぇーぜぇーと荒い息をするズンズンの背中におぶさり、シヌシヌが言葉を投げた。
「……え?あれ!?な、なんでここにいる?馬の足に人間が追い付ける訳が……」
「お前ごとき盗人に説明してやる義理はない。いいから馬車返せよ」
爆散隊を怒鳴り付けたシヌシヌだったが意外と冷静だった。
場所は山がちの街道、荷馬車を乗り入れ出来る場所などない。
「道なりに行けば必ずいる。追い付くぞ」
盗人は諦めきれない、青ミイラが手に入ればこんな危ない稼業、足を洗える。
ダメ元だ、盗人は荷馬車で横になる青い女の首元にナイフを突き付けた。
「動くな、こいつがどうなってもいいのか」
盗人の予想に反し、これはかなりの効果があった。
荷馬車の主と思しき、おんぶをされた男は明らかに険しい顔になり盗人の様子をじっと窺う。
いける、と盗人は思った。
その時、積まれた青ミイラの山からニュッと小さな手が。
小さな手は盗人のナイフを持った手をギュッと掴んだ。
「??」
次の瞬間、青ミイラの山は崩れ中から少女の顔が現れる。
少女の顔は盗人のナイフの手に噛みついた。
「いってえ!」
盗人はチィコを殴り付け、払いのけた。
誰のものだろう、ピッと細く血が飛ぶ。
荷馬車から転落するチィコ。
盗人は慌てて人質の確認を……しようとした時には既に意識を飛ばされていた。
ピッゴが一瞬で間合いを詰め、盗人の鼻に食らわした後だった。
「おい!おい!大丈夫か!」
シヌシヌ達の呼び掛けにチィコはうっすら目を開ける。
「あー……皆……。皆は大丈夫だった……? カコちゃんは……?」
チィコは頭を打って意識が朦朧としている。
払いのけられた時に運悪くナイフが当たってしまったようで、額から出血もある。
痕が残ってしまうかもしれない。
「俺達は大丈夫。カコも無事だよ」
こんな状態、置いていく訳にはいかなくなった。
「私……仲間を守ったよ……。これで爆散隊の一員だね……」
シヌシヌは答える事が出来ない。
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