「侑希さん！　将棋しましょう！」

「将棋？　いいけど、ゆきちゃん将棋のルールなんてわかるの？」

「やったことはないですけど、ルールなら大体わかると思います。ほら、最近将棋流行ってるじゃないですか」

「将棋が流行ってたのってちょっと前じゃない？　まぁ、せっかくだしやろうか」

「はい！　じゃーん。見てください。将棋買ったんです。一緒にやりましょう。というか侑希さんはルールわかるんですか？」

「昔姉さんとよくやったからね」

「いいですね。さて、それではいざ！　って、あれ？　なんですかこれ？　片方、王（おう）じゃなくて玉（たま）じゃないですか！」

「玉将だね」

「将棋って、王を追い詰めるゲームですよね？　玉なんか追いかけてもしょうがなくないですか？」

「まぁ、それはそうなんだけど」

「へ？　『と』？　歩兵って一番弱い駒ですよね。裏面に『と』って書いてあるんですけどなんですかこれ？」

「もしかして、『成り』も知らないの？」

「ナリ？」

「敵陣地に行くか、敵陣地から出ると駒は変身できるんだよ」

「変身ですか！」

「そう。裏返ってね。特に歩兵なんて一つ前にしか進めないのに、成れば金将と同じ動きができるようになるから、大出世だね」

「変身って、めっちゃかっこいいです。ちなみに王は変身するとどうなるんですか？」

「王将は成れないんだよね」

「ちょっと残念ですね。死の間際のピンチに最後の力を振り絞って変身したらかっこいいんですけど」

「なんかちょっと将棋を勘違いしてない？　そんな肉体的な戦じゃないよ。まぁ、とりあえず一回やってみよう。やりながら覚えようか」

「はい！　それではいざ、王手！」

「……。王手は開始の合図じゃないんだけど……」

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