ゆきちゃんと帰省編 その十



「はぁ〜。お酒もおいしい。すごいな。ここってほんとにいいところだね」



「……そうね」



「ああ、そうだった。はい、お冷飲んで」



「ぷはーっ。あれ? 私……?」



「君じゃない方が今出てたよ。お酒飲んでたからね」



「侑希さんと二人の時は出てこないでっ言ってるんですけどね」



「何? 君の中に誰か住んでるの? 二重人格ってやつ?」



「いえ、酔ってるだけですよ」



「記憶までなかったじゃんか」



「ほら、酔うと記憶ってなくなるじゃないですか」



「そんな一口くらいで記憶無くなる人あんまりいないよ。それにお冷飲んだだけで正常に戻らないから」



「……そうかしら?」



「だから、会話中は飲まないでって! 話できないでしょ」



「……そんなことはないわ」



「ほら、肯定と否定しかできてないよ。僕のことわかる?」



「……もちろんよ」



「普通今の質問にイエスだけで答える人いないよ。目の前にいる人は誰ですかって訊いてるんだけど」



「……このの彼氏よね?」



「……! お前さてはゆきちゃんじゃないな! 自分のことを『この娘』なんて絶対に言わないし、『彼氏よね?』ってなんで疑問系なんだよ。正体を現せこの野郎!」



「……ふふ」



「まさかゆきちゃんの身体を乗っ取って……。ゆきちゃん! 今助けるからな——



「侑希さん!」



「……?」



「起きてください、侑希さん」



「……え?」



「こたつで寝てたら風邪ひいちゃいますよ。お酒の飲み過ぎです」



「ああ、夢か……」



「眠りながら、ぶつぶつしゃべってましたよ。もう」



「あはは……」



「……ねぇ、侑希さん」



「ん?」



「何から私を助けてくれるんですか?」


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