第94話 番外編 10
「中々の魔力のようだけど、所詮は人間ってことなのよ」
ルサルサが憐れみにも似た表情で、鳴神ひかりに微笑みかける。
「分かったなら、そこでジッとしてなさい。後で存分に殺してあげるから」
「うぅ…っ」
ルサルサの完全に見下した発言に何も反論出来ない鳴神ひかりは、心底悔しそうに唇を噛んだ。
そのときバグナーが、右拳を振り上げながらエルアーレに襲いかかる。もはやその眼中に、鳴神ひかりたちの姿は映っていない。
迎え撃つエルアーレは瞬時に3個の火球を創り出すと、バグナーに向けて撃ち放った。しかしルサルサの足下から伸びた水流に、全ての火球がことごとくかき消されてしまう。
そうしてバグナーの巨大な拳が、大量に発生した湯気を吹き飛ばしながら、エルアーレに打ち下ろされた。
エルアーレは日傘を両手で構えてその拳を受け止めるが、如何ともし難い体格差に、いとも簡単に吹き飛ばされる。しかしクルリとそのまま後方宙返りを決め、着地と同時に爆発的な加速力でバグナーに向けて突進した。
だがその行動に素早く反応したバグナーが、右足でドンと地面を踏み抜く。
その瞬間、エルアーレの足下が突然跳ね上がり、小柄な身体が空中に放り出された。そしてそこを狙い澄ましたルサルサの3本の水流が、更に上からエルアーレに襲いかかる。
エルアーレは咄嗟に火球で応戦するが、敢えなく無惨に飲み込まれ、水流がその身に差し迫った。
「じゃからルサルサは、可愛くないんじゃ」
瞬時に日傘を開いて水流を受け止めるが、そのままエルアーレの身体を真下に押し込んでいく。
同時に待ち構えていたバグナーが、降下中のエルアーレに、ゴツゴツした右肩のショルダータックルで突っ込んだ。
同士討ちを避けたルサルサの水流が、ギリギリ寸前で消滅する。その僅かな一瞬に、エルアーレは真下に火球を撃ち込んだ。
そのままタックルの一撃に撥ね飛ばされるも、吹き飛んだ先でヒラリと着地に成功する。
「日傘で拾った爆風の上昇力で、タックルの威力を逃しましたか…本当に感心してしまいます」
そのときルサルサが、赤い瞳を輝かせて、愉しそうに微笑んだ。
「ですが、何の解決にもなっていませんよ」
「それはどーかのう。そろそろ儂の身体も温まってきた頃じゃ」
エルアーレも負けじと微笑むと、腰に手を当て、細い首筋をコキリと回した。
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「もしかしたらエルアーレって人が、このまま勝ってくれるかもー」
ただの外野と化してしまった鳴神ひかりは、感心したような表情で呟いた。
周りの騎士団員の護衛たちも、勝てる可能性のあるエルアーレに、期待の眼差しを向けている。
しかし白石和真ひとりだけは、その表情に厳しい色を浮かべていた。
「たぶん違うよ、ひかりちゃん」
「え…?」
「こーいう時のド定番は、相手に弱味を見せないためのハッタリだ。このままじゃマズイ」
「マズイ…って?」
「アイツがやられたら、次はオレたちの番だ…その前に何とかしないと」
白石和真は右手のダガーに視線を落とすと、グッと強く握りしめた。
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