第33話

「よくもまあ、そんな訳の分からないガラクタばかりを選んだものアル」


 結局「風の刃」と「水の泡」を選んだ二人に、リーラが呆れた声を出した。


 それから階段を上がって1階に戻ると、カタカタと何やらレジに打ち込んでいく。


 よく考えたら、どの魔法道具にも金額が表示されていなかった。神木公平は急に不安に襲われ、ゴクリと息を飲む。


「締めて28万リルグになるネ」


「えっ⁉︎」


 思わず神木公平の口から声が漏れた。いや、決して買えない金額という訳ではない。しかしコレを購入して、果たしてこの先やっていけるのだろうか?


 そのとき神木公平の左袖を、佐敷瞳子がクイッと引っ張った。そちらに顔を向けると、彼女の表情からも似たような葛藤が読み取れる。


 神木公平はゆっくりと目を閉じて、一度大きく深呼吸をした。


 どうしても今すぐ必要という訳ではない…余裕が出来た時に買えば良いのだ。


 少年の決意が固まった瞬間、メイの呑気な声が店内に響き渡った。


「捨て値で買い取った欠陥品や、ただの子どもの玩具に、えらく吹っかけてくるじゃねーか」


 頭の後ろで両指を組んで、どこか余裕そうな笑顔を作る。


 リーラは苛立たしげに小さな溜め息を吐くと、メイを真っ直ぐに見据えた。


「今となっては手に入らないプレミア物や、他に二つとない一点物に付ける値段としては、充分に妥当な金額ネ。気に入らないなら、何処か他所に行けば良いアル」


 コッチの商売はあくまで趣味だと言うオーラが、彼女の全身からひしひしと伝わってくる。


「おー怖い。それにしてもリーラ、アンタ良い勘してんな」


 唐突に話が変わり、リーラが怪訝な表情を見せた。


「…何の話ネ?」


「実はこの二人、ちょっと訳アリでさ…かなり特殊な能力を持ってる」


「……」


 飄々としているメイの意図が掴めずに、リーラは更に警戒心を強める。


「特にトーコは役に立つぜ。ものの数秒でアオツメソウが2本だ」


「な…っ⁉︎」


 突然リーラに視線を向けられ、佐敷瞳子は驚いたように顔を伏せた。


「そういえば、だいぶ前に言ってた欲しい素材ってのは、結局手には入ったのかい?」


 やっとメイの意図が掴めたはリーラは、「チッ」と軽く舌打ちをする。


「交換条件って訳アルか?」


「勿論、成功報酬だ。失敗したときは、買うか諦めるかをそん時考える」


 メイの勝ち誇ったような嫌らしい笑みに苛立ちを覚えながら、リーラはスッと丸眼鏡を外す。それから取り出した布でキュッキュとレンズを拭くと、再びゆっくりとかけ直した。


「交渉成立ネ。メイのつまらない浅知恵に、一度だけ付き合ってあげるアル」

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