第30話

 店の地下は、十畳ほどもある空間だった。


 部屋を取り囲むように、壁沿いに腰の高さ程の陳列台が並ぶ。そして部屋の中心にも、浮き島のように陳列台が配置されている。


 杖や剣のような長い物は、二つの杭を使って壁に掛けられ、ハンマーや盾のような大きな物は、台に立てかけるように床に置かれていた。


「趣味…ね」


 神木公平は呆れたように部屋を見回す。一階の店舗よりも広いこの部屋には、ハッキリとした情熱が込められていた。


「さて、どんな物が欲しいアルか?」


 リーラは丸イスに腰掛け足を組むと、丸眼鏡を外して布でキュッキュと拭き始める。


「それはこれから考える。ちょっと見て回っても良いよな?」


「どうぞ、ご自由に」


 その返事を確認すると、メイは神木公平と佐敷瞳子に好きに回るように声をかけた。それからリーラのそばに立ち、頭の後ろで両指を組んでピーピーと暇そうに口笛を吹く。


「あの子たち、何者ネ?」


「あん?」


 メイは口の端で「ニッ」と笑うと、シラを切ったように振り向いた。立っている自分の方が少し目線が高く、若干見下ろすような姿勢になる。


「最近新しく雇ってさ、それがどうした?」


「ちょっと不思議な気配を感じるネ。でも心当たりがないなら、もういいアル」


 それだけ言うと、興味を無くしたように再び眼鏡を拭き始めた。


   ~~~


 神木公平が陳列されている魔法道具を見て回っていると、「炎の玉、300」やら「水の檻、500」やらと貼られているステッカーに気が付いた。とても価格とは思えないが、この値段で手に入るなら大いに助かる。


「あのっ、ここに貼られている数値って、何の数字ですか?」


「それは一回の発動に要する魔力量ネ」


「えっ、一回っ⁉︎」


 驚く神木公平の姿を見て、リーラは丸眼鏡をかけ直した。それからメイに怪訝な視線を向ける。


「どういう事ネ? 魔法道具の事を全然知らないアルか?」


「そういう奴もいるだろーさ」


 メイは再び頭の後ろで両指を組むと、視線を逸らしてうそぶいた。


 リーラは半ば諦めたように溜め息を吐くと、スックと丸イスから立ち上がる。それからツカツカと歩み寄り、神木公平と並んで立った。


 そこで初めて気付いたが、神木公平とあまり変わらない長身な女性であった。


「前提として魔法とは違い、魔法道具はひとつの事しか出来ないアル」


 魔法道具とは、魔核に刻まれた決まった術式しか発動することが出来ない。例えば火や水の属性の魔核に、戦闘用なら「圧縮した炎を撃ち出す」や「水の球体に相手を閉じ込める」と云った術式を刻み、生活用なら「熱する」「冷やす」と云った単純な術式が刻まれる事が多い。


 そしてその術式に魔力を流す事によって、定められた効果が発動するのだ。当然、刻まれた術式が複雑になればなるほど、発動に必要な魔力量が増えてしまうのは道理である。


(参ったな…)


 リーラの説明を受けて、神木公平は頭を抱えた。ザッと見回して見ても、200を下回る数値が見当たらない。


 少年は藁をも掴むような気持ちで、佐敷瞳子の姿を探す。


 すると反対側の壁際に、食い入るようにひとつの魔法道具を見つめる少女の後ろ姿があった。

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