第四章 召喚者たち

第25話

 神木公平と佐敷瞳子がお店の開店準備を手伝っていると、突然店内にミサが姿を現した。


「うおっ⁉︎」


 思わず神木公平が大きな声をあげる。


 やってる方には意識は無いが、やられた方はかなり心臓に悪い。


「おや使徒さま、今日は何の用で?」


 店の奥にいたメイが、ヒョコっと顔を覗かせた。


「メイさん、すみません。少し彼らをお借りしても構いませんか?」


「ああ、構わないよ」


 ふたつ返事でメイが応える。


「え…でも」


 神木公平が周りを見ながら困惑の表情を見せた。


「いつもは一人でやってんだ。こんだけやって貰ったら充分だよ」


 メイは佐敷瞳子から奪い取るようにホウキを受け取ると、軽い様子でニカッと笑う。


「ほらほら、使徒さまを待たせるんじゃないよっ」


「お忙しい時間にすみません」


 ミサは真っ白の聖杖を胸元で握りしめると、深々と頭を下げた。


「その代わり…珍しいモノを見つけた時は、メイの再生屋をご贔屓に」


「ええ、分かっています」


 恭しく頭を下げるメイを見つめて、ミサは優しく微笑んだ。


   ~~~


 連れてこられたのは、昨日のあの部屋だった。咲森勇人たち3人とユミルも既に集まっている。


「あっ、コーくん、トコっち、昨日ぶりー」


 鳴神ひかりが嬉しそうに大きく手を振った。


「おはようございます、鳴神さん」


 神木公平の挨拶に続いて、佐敷瞳子も頭を下げる。


「あー何それー。ひかりって呼んでよー」


 すると鳴神ひかりが両手を腰に当てて、若干前屈みで上目遣いに見つめてきた。


「え…?」


「ほらー早くー」


 戸惑う神木公平を、更に追い込んでくる。


 そのとき佐敷瞳子が、神木公平の左袖をクイッと引っ張った。何事かと顔を向けるが、無言で俯いたまま動かない。


「おいコラ神木ーっ!」


 見兼ねた白石和真の怒鳴り声が、部屋の中を突き抜けた。


「朝から何、見せつけてくれてんだっ! 調子に乗ってんじゃねーぞっ!」


「カズっぺ、ウルサイ」


 鳴神ひかりは不満をあらわにすると、膨れっ面でソッポを向く。


「そんなー、ひかりちゃーん」


 慌てて白石和真がオロオロするが、鳴神ひかりは視線を合わそうとはしなかった。


「職に就けたらしいな」


 そんな二人を気にも留めずに、咲森勇人が神木公平に真っ直ぐ視線を投げかける。


「あ、はい。ミサさんのおかげで」


「気になっていたので、良かったよ」


「ありがとうございま……あっ!」


 その瞬間、神木公平が大きな声をあげた。


「ミ、ミサさんっ、ちょっとステータスを確認しても良いですか?」


「え、ええ、それは構いませんが…」


 ミサも困惑気味にゆっくりと頷く。


「どうかしたのか?」


 詮索するように、咲森勇人が目を細めた。


「はい、魔獣を討伐したのでもしかしたら」


「はあ⁉︎ 昨日の今日で、もうかよ⁉︎」


 神木公平の発した言葉に、白石和真が呆れたような声を出す。


「ええ、まー成り行きで…」


 そのとき咲森勇人が「ククッ」と笑った。


「本当に主人公のようだな、神木くん」


 そうして楽しそうな表情で、眼鏡をクイッと持ち上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る