第16話 10日目:ツンデレ妹②

 お姉ちゃん大好きっ娘ことセリアは、あの後やってきたカマエル王に引きずられて帰っていった。あんたら本当に王族なの? 威厳もクソもねぇぜ。


「最近、やけに変な奴らに絡まれるな」


 セリア然り、カマエル然り。

 平穏とは何かと考えてる俺がいる。

 別に騒がしい日々が嫌いなわけでもないけど、騒がしすぎるのも考えものだ。


「さて、行くか」


 今日も今日とてルミナスに魔法を教えに。



☆☆☆





「あり得ないです」


 俺がセリアのことを話すと、ルミナスは考えることなく吐き捨てるように言った。


「え? どうしてだ?」


 ルミナスは顔を伏せ、悲しそうな声色で言った。



「私は……あの子に嫌われていますから。それに、私はあの子に嫌われて当然なんです」


 その言葉には嘘も冗談も含まれていないようだった。紛れもなくルミナスは、セリアに嫌われている。そう思っている。


「何故だ……?」


 だが、俺は昨日の一件から、セリアがルミナス大好き好き好きっ娘であることを知っている。あんなに激しく突っかかってきて、嫌いとかどんな演技派だよ、って感じ。


 ……うーむ、まあ話したくない顔してるし、家族の問題だからな。俺が介入するのはお節介にも程がある。


「じゃ、気を取り直して────」


 続けよう。と言おうとした瞬間、ガチャと無造作に扉が開け放たれた。

 

 敵意がなかったから気が付けなかった。

 現れたのは──


「ふんっ、まだこんな部屋にいるの? あんたの居場所はないんだから出ていきなさいよ!」


 ぷりぷり怒る、小さな少女。

 腕を組んでルミナスを睨むセリアだった。


「……」


 ほら、と何処か諦めた様子のルミナスが悲哀の目で俺を見た。


「?????」


 そんなルミナスを尻目に俺の頭ははてなマークで一杯だ。

 今のセリアの言葉。紛れもなく悪意がある……ように聞こえるが、その言葉に悪意や敵意などの害意は存在していない。どちらかというと、逆で、親愛を向けているような気がした。

 ふむ、わからん!!


「へい、セリア。ちょっと来い」


 セリアの首根っこを掴んで、部屋の外に引きずる。


「ちょ、ちょっと何するのよ!! 離しなさいって……この変態ッッ!!」


「うるせぇ」


 じたばた暴れるが、力の差は歴然。俺は難なくセリアを部屋の外に出すことに成功する。


 キッ! と睨み付けてくるセリアにハァ、とため息を吐きながら言う。


「さっきの言葉、どういう意味で言ったのか言え」


「なんであんたにそんなこと言わなきゃいけないのよ!」


「良いから」


「ッッ!」


 少しの怒気を込めると、瞳に反抗心を残しながら渋々言った。

 

「だって、あんな殺風景な部屋で可哀想じゃない。私がお父様に言えばすぐにもっと良い部屋を用意できるのに、って……」


 唇を尖らせ拗ねたように言うセリアは、年相応の子供のようだった。

 俺は頭をボリボリ掻きながら、面倒なことになったな、と悩む。


 介入しない……つもりだった。でも、こればかりは、お節介になっても良いからしなくてはいけない。じゃなきゃ、もっと関係が悪くなる。


 一先ず俺はセリアに現実を突きつける。



「言葉足りない。そのせいか知らんけど、ルミナスがお前に嫌われてるって言ってたぞ?」


「そ、そんなはずないじゃない!」


「実際問題、言葉足りてないの自覚してる?」


「言葉足りない。ってそのままの言葉を言ってるだけよ!!」


 全然そのままじゃねぇよ!! と喉元まで言葉が出たが押し込める。自覚無しかよ……。

 少なくとも俺とのやり取りの時は、そこまで誤解される言葉もないはずだが……?


「よし、お前、お姉ちゃん大好き、って言ってこい」


「なんでそうなるのよ!?」


「誤解を解きたかったら、自分の言葉を素直に伝えるのが一番だ」


「……ッッ」


 怒りはあるが、俺の言葉に納得している……がしかし、それも認めたくないといった、実に愉快な表情で百面相をしている。

 プライドが高いのか、はたまた子供の癇癪なのか。子供って言っても十四歳くらいな気がする。勘だけど。


「うぅ……」


「お姉ちゃん、好きか?」


「当たり前よ!」


 くわっ、と目を見開いて肯定するセリアに苦笑し、なら言ってこいと急かす。

 

「わかったわよ……。言えば良いんでしょ。言えば」 


 さすがに好きと伝えるのは照れるのか、顔を赤くしてソワソワするセリアは少し可愛い。

 なんか、猫みたいだな。



 俺はセリアがガチャと扉を開けたのを見て、聞き耳を立てる。


「お姉ちゃんッッ!! 特別に私が家族として愛してあげても良いのよ!!!」


「……別に無理しなくても良いよ」


 俺は神速の踏み込みで部屋に入り、セリアを抱えて脱出する。その間3秒。


「お前は馬鹿か!!!」


「な、なによ。ちゃんと言ったでしょ!?」


「どこがだ!!! 上から目線すぎだし、お情け的な感じで言ったと思われてるだろ!」


 部屋の外で叱りつけると、懲りずに言い訳するセリア。

 どうしてこうなるんだ……。言ってることが思ってることと真逆、もしくは悪意ある言葉に聞こえる病気にも罹ってんのかこいつ。

 ん、待てよ? 


 俺はそのワードにあることを思い出す。



☆☆☆



『ヨウメイ。最近、巷ではツンデレ、というものが流行ってるようですね』


『ツンデレ? なんだそれ』


『曰く、特定の相手に対して言ってることと思ってることを真逆に言う行為らしいです』


『それの何が良いんだ?』


『さあ? ……ごほん。べ、別にあんたのことなんか好きじゃないんだからねっ!』


『は?』


『これがツンデレらしいですよ』


『いや、どう考えても非効率だろ』


『ですよね。まあ、君は君に好意を抱いてくれる特定の人がいないから無駄ですけどね! プークスクス』


『うるせぇ!』



☆☆☆



 やべ、余計なことまで思い出した。

 俺は、ごほんと咳払いをして気持ちを入れ替える。



「セリア、お前はツンデレなんだ」


「はぁ?」


「恐らく、特定の相手に対して言ってることと思ってることが真逆になっちゃうんだよ。お前は言ってるつもりだろうが、微塵も通じてない」


「な、なんですって……」


 ガビーンと床に四つん這いになって落ち込むセリア。うむ、これで問題点がハッキリしたな!

 だが、一つ。特定の相手に対して、という条件はちょっと曖昧な気がする。

 俺に向かって、姉が好きなことを語ることに『ツンデレ』を発動させることはない。

 よって、俺の見解だと、『面と向かって話すことが』という前提条件があるに違いない。


「お前はルミナスと仲良くしたいのか?」


「あ、当たり前よ!! ……私はお姉ちゃんが大変な時に何もしてあげられなかったし、やっと、最近になって公務が少なくなったから会いに行けるのよ!」


 だから、俺が最初にいた頃は姿が見えなかったのか。 

 

 セリアの表情には、ただひたすら姉への愛があった。

 ……うん、ならお節介させてもらおうかな。




 俺はルーン文字を描きを発動させた。



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