第七百八十七話 5月28日/高橋悠里は晴菜から球技大会の話を聞き、投票が楽しみだとわくわくする

「生徒会の手伝いをしている松本です。これから、明日の球技大会についての連絡事項を伝えます。まずはノートパソコンを起動してください」


黒板に前に立って言う晴菜の声はよく通り、堂々としていてカッコいい。

悠里は美人で有能な幼なじみを誇らしく思いながら、指示通りに机の上に置いたノートパソコンを起動した。


「ノートパソコンには明日の球技大会の試合の組み合わせ表やタイムスケジュールのデータを送信しています。届いていない人はいますか? データが届いていなかったら手を挙げてください」


悠里のところには球技大会の試合の組み合わせ表とタイムスケジュールのデータが届いている。

教室内で手を挙げている生徒は誰もいない。

データは教室内にいる全員に、きちんと届いているようだ。


「全員に届いているみたいでよかったです。球技大会の試合の組み合わせ表に名前が無い人や、フルネームの漢字が間違っている人は私か生徒会役員に教えてください。頑張って確認したんですけど、間違いがあるかもしれないので」


晴菜の言葉を聞きながら、悠里は球技大会の試合の組み合わせ表とタイムスケジュールのデータを確認した。

悠里の名前は『卓球』の試合の組み合わせ表にきちんと記載されている。漢字も間違いない。


「明日の球技大会は、新型コロナを考慮して、自分のクラスの試合以外は、リモートでの応援になります。自分のクラスの試合は、応援に行きたい人は行ってください。新型コロナが心配な人は、自分のクラスの試合でも、教室でリモートで応援してもらっても大丈夫です」


「部活の友達の応援したいんだけど」


「違うクラスのカノジョといるのもダメってこと?」


教室内がざわつき、クラスメイトたちが口々に質問する。


「昼休みは教室を移動して好きな人とお弁当を食べてもらっても大丈夫です。生徒会で校庭にシートを敷くので、外で食べてもらうこともできます。でも、それ以外は、基本的には自分のクラスにいてください。その代わりに、皆で楽しめるように、今年の球技大会では『投票制度』を導入します」


晴菜はそう言って黒板に『投票制度』と記載した。

晴菜の字は大きく、整っていて見やすい。

晴菜は黒板から生徒たちに視線を向け、制服のポケットから紙を取り出した。


「これが投票用紙です。後ろの人は見づらいと思うので、球技大会の試合の組み合わせ表のデータの一番下を見てください」


晴菜の言葉を聞いて、悠里は球技大会の試合の組み合わせ表のデータの一番下を見た。

投票用紙のデータがある。

『一回戦の勝者は誰か、予想して投票しよう!!』という投票用紙と『優勝するのは誰か、予想して投票しよう!!』と書いてある。

そしてどちらの投票用紙にも、勝者の名前とクラス、投票者の名前とクラスを書くようだ。

注意事項として『勝者予想の名前は、球技大会の試合の組み合わせ表のデータ等を確認して記載すること』と書いてある。


「今年の球技大会は、投票で楽しめるように企画しました。一回戦の勝者を当てた生徒には、校長先生から駄菓子セットが贈られます」


晴菜がそう言うと、教室が沸いた。


「えっ!? マジ!?」


「全員分!?」


「全員分です。校長先生が『アルカディアオンライン』で稼いだお金で球技大会に協力してくれます。そして決勝に残り、優勝した生徒全員に『牧高食堂』のペア1万円食事券が贈られます。500円綴りで20枚、お釣りも出るので安心です」


晴菜の言葉に、教室がさらに沸いた。


「校長先生太っ腹!!」


「っていうか『アルカディアオンライン』ってそんなに稼けるの!?」


「誘う女子がいないんだけど!!」


「『牧高食堂』のペア1万円食事券は一人でも利用可です。でも、コロナ禍なので、食堂を利用する時は、二人まででお願いします。投票用紙の余白に『牧高食堂に連れて行って』等のアピールも可です。但し、投票相手のフルネームの漢字が間違っている投票用紙は無効になります。投票用紙はバインダーに閉じて各生徒に配ります。本人が見るので悪口は禁止です。生徒会の開票係が見て『悪口』と判断した場合は無効票になります。自分への投票も可なので、球技大会の試合に勝てるという自信がある人は堂々と自分の名前を書いてください」


晴菜の説明を聞いた生徒たちは悲喜こもごもにお喋りをする。

晴菜は説明を続ける。


「一回戦の投票用紙は球技大会の朝に配ります。決勝戦はお弁当を食べた後になるので、昼休み終了直後に配布します。今日一日、試合の組み合わせ表のデータ等を見て予想してくれたらと思います。八百長は禁止です。一回戦の組み合わせは体育の先生等の意見を聞いて、同じくらいの実力の人を組ませたので八百長したらすぐわかると思います」


「生徒会、芸が細かい……」


「オレ、自分で投票しなかったら一票も入らなそう……」


悠里は『自分で投票しなかったら一票も入らなそう』というクラスメイトの男子の言葉を拾い、内心で激しく肯いた。


「投票が一票もなかったら、生徒会のメンバーがねぎらいの言葉を記載したメッセージカードとハートのチョコレートを渡します。なのであえて『投票用紙無し』を狙ってみても面白いと思います。もしかしたら生徒会メンバーからメッセージカードで告白されるかもですよ」


「松本さん、もうカレシいるじゃんー!!」


「松本さんからメッセージ欲しい」


「投票ゼロのヤツに告るとかありえねー」


クラスメイトが騒いでいると、一時間目開始のチャイムが鳴り、一時間目の担当教師が教室に入ってきた。


「球技大会は明日の9時からなので遅刻しないで、お弁当も忘れずに持って来てください!! 話は終わりです」


晴菜は早口で言って、黒板に書いた『投票制度』の文字を黒板消しで消し、自分の席に戻る。


「はるちゃんお疲れ」


悠里は後ろの席の晴菜を振り返って言う。


「ねぎらいありがとう。投票のこと、あたしの説明でわかった?」


「うん。投票楽しみ」


悠里はそう言って、前を向く。

昨日は眠くて授業どころじゃなかったけれど、今日は真面目に授業を受けよう。

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