第五百九十六話 高橋悠里はログアウトして要からのメッセージを読み『チョコチップクッキー』の材料の確認をしようと思う
悠里はベッドの上で目を開けた。
どうやら無事にログアウトできたようだ。
「HP最大値が1になるデメリット、キツいなあ……」
悠里はそう呟いて、横たわっていたベッドから起き上がり、ヘッドギアを外して電源を切る。
それからゲーム機の電源を切った。
そしてゲーム機器を充電する。
明日も『アルカディアオンライン』で楽しく遊ぶのだ。
「トイレに行こう」
悠里はそう呟いて自室を出た。
一階のトイレに行って、二階の自室に戻った悠里はスマホを手にする。
「あっ。要先輩からメッセージが来てる……っ」
悠里は満面の笑顔を浮かべて要からのメッセージを表示させた。
♦
悠里ちゃん。『アルカディアオンライン』で連絡できなくてごめんね。
ユリエルの固有クエスト関連で忙しくて、まだ塩のこととか聞けてないんだ。
ユリエルは、港町アヴィラの港からヘヴン島に向かう船に乗って、船室でログアウトした。
新しいワールドクエストが終了するまでにヘヴン島にたどり着けるかわからないけど、魔術師ギルドから集めた魔術師たちが風の魔法を使って帆船をヘヴン島に進めてくれてると思う。
ワールドクエスト『消えた孤児たちを追え!!』でやったことを、また繰り返すとは思わなかったよ……。
あと、俺の好きなお菓子はチョコチップクッキーだよ。
悠里ちゃんの手作りクッキーを食べられるの、楽しみにしてます。
じゃあ、またね。おやすみ。
♦
悠里は要からのメッセージを三度読み返して、にやけた。
「要先輩はチョコチップクッキーが好きなんだ。可愛い……」
クッキーは祖母が何度も作ってくれているお菓子なので、祖母と一緒にチョコチップクッキーを作れば問題なくおいしい仕上がりになるだろう。
……実は、要が今、一番好きなお菓子はチョコチップクッキーではなくマカロンだ。
だが、悠里への返信に『一番好きなお菓子はマカロン』と書こうとして、要は手を止めた。
スイーツショップで売られているおいしいマカロンは、実はどうやって作られているのか、要は知らなかった。
だから、要は『マカロン レシピ』でレシピ検索をしたのだ。
そうしたら『簡単』とうたわれている物でもマカロンの製造工程は多かった……!!
要は複数のスイーツのレシピ検索をした結果、作業工程が少ない焼き菓子のクッキーをリクエストするのが最適ではないだろうかという結論に至った。
工程が少なく失敗しにくいという点では『プリン』も候補に挙がったが、持ち運ぶのであれば焼き菓子のクッキーの方が良いだろうと要は思った。
要は、クッキーの中では『チョコチップクッキー』が一番好きなので、悠里に嘘を吐いているわけではない。
要の気遣いの結果『マカロン』から『チョコチップクッキー』にリクエストされたお菓子が変わったことを知らない悠里はにこにこしながら口を開く。
「明日、お祖母ちゃんにチョコチップクッキーの材料あるか聞いてみよう。あと、銀行からお金を下ろしに行こう。『アルカディアオンライン』で私が稼いだお金で、要先輩との写真を飾るフォトフレームとアルバムを買いたい」
明日……日付がすでに変わっているので正確には『今日』だが……の予定を決めた悠里はスマホを充電して、部屋の電気を消し、それからベッドに潜り込んだ。
数分後、悠里は眠りに落ちていた……。
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