第五百三十一話 高橋悠里と要は学校に到着し、音楽準備室からサックスケースを持ち出す

悠里と要は学校に到着した。

運動部も部活をしているようだ。

コロナ禍のせいで、部活ができる時間が限られてしまっているので、どの部活も少しでも長く部活動をするために頑張っているのかもしれない。


悠里と要は昇降口で靴を脱ぎ、上履きを履いて、一階の職員室に向かう。


今日部活に誘ってくれたバリトンサックス担当の二年生、篠崎萌花がまだ学校に来ていないのであれば、職員室に行き、吹奏楽部顧問の矢上先生から楽器がしまってある音楽準備室の鍵を借りなければならない。


職員室の前で足を止め、要は悠里に視線を向ける。


「悠里ちゃん。俺が音楽準備室の鍵を借りてくるから廊下で待ってて」


「はい」


悠里は要に肯いた。

今日は、中間テスト明け休みで、先生たちは職員室で中間テストの採点をしているはずだ。

要と悠里が二人で職員室に入るより、要が一人で職員室に入った方が先生たちの迷惑にならずに済む。


それに、悠里は通学鞄とお弁当が入った保冷仕様のエコバッグを持っている。

通学鞄だけを持っている要の方が、身軽に動けて先生たちの邪魔にもならないはずだ。


……要が職員室から出てきた。


「悠里ちゃん。待たせてごめん。音楽準備室の鍵はもう篠崎が持って行ったみたい」


「そうなんですか。篠崎先輩、もう来てるんですねえ。相原くんは今日、来るのかなあ」


悠里はサックスパートの一年生でテナーサックスを吹いている相原颯太も部活に来ているのか気になった。

三年生の佐々木美羽が部活を辞めた今、サックスパートのメンバーは二年生の要と萌花、一年生の颯太と悠里の四人だけだ。


「どうだろうね。今日から三連休だから、相原は予定とか入れてるかもだし」


要はそう言いながら歩き出す。

悠里は要の後に続いた。


四階の音楽準備室に到着した。

音楽準備室の扉は開いている。


要は音楽準備室に足を踏み入れ、悠里は要に続いて室内に入った。

要がサックスがしまってある棚に向かい、アルトサックスが入ったサックスケースを二つ棚から出した。


「バリトンサックスのサックスケースとテナーサックスのサックスケースが無いから、篠崎と相原はもう教室で練習してるのかも」


棚の中を見てそう言った要は、悠里に視線を向けて言葉を続ける。


「悠里ちゃん。俺が悠里ちゃんのサックスケースを持つから、悠里ちゃんは俺の鞄を持ってくれる?」


「はい。わかりました」


悠里は今、右手に通学鞄を持ち、お弁当が入った保冷仕様のエコバッグを左腕に下げていて、左手は空いている。

左手で要の通学鞄を持つことができる。


悠里は要から彼の通学鞄を受け取り、要は右手に要のアルトサックスのケースを、左手に悠里のアルトサックスのケースを持って歩き出した。


悠里と要と入れ替わるように、ホルンパートの二年生男子が音楽準備室に入っていく。

要はホルンパートの二年生男子と挨拶を交わし、悠里は彼に会釈をした。


「今日、結構部活に来てる部員、多いみたいだね」


音楽準備室を出て廊下を歩きながら要が言う。


「皆、きっと楽器を演奏したいんですよ」


悠里はそう言いながら、今がコロナ禍でなければテスト明け休みの金曜日と土曜日、日曜日の三連休には部活ではなく、遊園地に行ったり映画を見ていたりしていたかもしれないと思った。


コロナ禍の今は、休日の行動の選択肢が減ってしまっていると思う。

遊園地も映画館も、たくさん人が集まる場所だから、今の悠里は怖くて行けない。

悠里は祖父母と同居しているから、絶対に絶対に、自分が新型コロナに罹って祖父母に移したくない。


新型コロナは基礎疾患が無い若者は重症化しにくいというけれど、基礎疾患がある人や高齢者にとっては命を脅かす病気だと悠里は知っている……。



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