第五百三十話 高橋悠里は要に頑張って作ったサンドイッチの具の説明をする



9:45になった。

グレーの不織布マスクをつけた悠里は祖母と母親に見守られながら、右手に通学鞄を持ち、お弁当が入った保冷仕様のエコバッグを左腕に下げた。

スマホは制服のポケットに入っている。

悠里は祖母と母親に視線を向けて口を開いた。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい。悠里。車に気をつけるのよ」


「行ってらっしゃい。部活、楽しんできなさい」


祖母と母親に見送られ、悠里は家を出た。


悠里は家の前に立ち、大好きな要を待つ。

こうして、家の前で要を待つのは二度目だ。


一度目の待ち合わせでは、ものすごい勢いで走って来た高そうな赤い車から要が現れて、悠里はすごく驚いた。

そして車を運転していた要の母親が遠目から見ても、ものすごくスタイルの良い美人で、そのことにもびっくりした。


悠里の幼なじみの晴菜が美人なので、悠里は美人を見慣れているが、要の母親は本当に綺麗だと思う。

さすが要の母親だ。要の美しい顔立ちは、母親譲りだと悠里は思う。

美しい顔の要と付き合っているのが平凡な顔立ちの悠里ですごく申し訳ないのだけれど、悠里は要のことが大好きなので付き合うことを見逃してほしい。


「悠里ちゃん……っ」


要の声がして悠里は物思いから覚め、声の方に視線を向ける。

制服を着てグレーの不織布マスクをして、学生鞄を手に持った要が走ってこちらに来ている。


「要先輩……っ」


悠里も走って要に近づく。


「遅れて……ごめん……っ。走れば間に合うか、なっ……て思ったんだけど、待たせた、よね……っ」


息を切らせながら要が言う。


「待ってないです。大丈夫です。要先輩、走ってきてくれてありがとうございます」


悠里は、要が悠里のために走って来てくれたことがすごく嬉しい。

要が悠里が待っていることを考えながら走ってきてくれるのなら、悠里は二時間くらいは立ちっぱなしで待てる。

要は息を整えて、目元を和らげた。


「じゃあ、行こうか」


「はいっ」


要と悠里は足並みをそろえて歩き出す。

歩きながら、要は悠里が持っている保冷仕様のエコバッグに視線を向けた。


「それ、もしかして作ってくれたサンドイッチが入ってる?」


「はい。お祖母ちゃんと一緒に頑張って作りましたっ。サンドイッチの具はポテトサラダ、卵、ハムとレタス、ハムとチーズ、カスタードクリームとバナナですっ」


悠里は要に張り切って説明する。

悠里が作ったとかろうじて言えるのは卵サンドくらいで、あとは全部祖母の力作だ。


「いろいろ作ってくれたんだね。ありがとう。食べるの楽しみだな」


いろいろ作ったのは祖母であり、悠里ではない。

でも、悠里の気持ちとしては、今日のサンドイッチは祖母との合作なのだ。


「おかずは、おばあちゃんが鶏のから揚げと卵焼きを作ってくれました。ミニトマトも入ってますっ」


「そうなんだ。悠里ちゃんのお祖母ちゃんにも、俺がお礼を言ってたって伝えてね」


「はいっ」


「お弁当、重くない? 俺、持つよ」


「大丈夫です。要先輩は走ってきてくれて疲れてると思うので、お弁当は私が持ちます」


「そう? じゃあ、お礼に俺が悠里ちゃんにオレンジジュースを奢るね」


なぜか、悠里が要にオレンジジュースを奢られることになってしまった。

要に奢られるのが申し訳なくて断ることもあるのだが、今回は、素直に要にご馳走になることにする。


「ありがとうございます。要先輩」


頑張って作ったサンドイッチを、要がおいしいと言ってくれるといいなと思いながら、悠里は要とお喋りをして学校へと向かった。


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