【主人公の父親の名前と名前の由来等】第五百二十九話 高橋悠里は部活に行く準備をして、祖母にお弁当を持っていく準備をしてもらう



「お父さんはもう会社に行ったのよね? 朝ご飯はお祖母ちゃんが用意してくれたの?」


「私は知らない。私がダイニングに来た時はお父さんいなかったよ」


悠里は母親に言う。

今日は金曜日。父親は仕事に行っているはずだ。

母親のためのおにぎりと味噌汁、お箸をトレイで運びながら、祖母が口を開く。


「お父さんならバナナを食べて牛乳を飲んで仕事に行ったわよ。あの子も寝坊したみたい」


「そうなんだ。何か食べて行ったのならよかった」


「ごちそうさまでした」


祖母が母親の前におにぎりと味噌汁、箸を置いている間に悠里は朝ご飯を食べ終え、自分が使った食器をキッチンに運ぶ。


キッチンのシンクに汚れたボウル等の洗い物が溜まっていたので、悠里は自分が使った食器とボウルを洗って片づけた。

それからキッチンを出て歯を磨き、トイレに行って二階の自室に向かう。


自室に入った悠里は通学鞄に携帯用のアルコール消毒液が入っていることを確認してからハンカチと自分と要の分のマスクケースを入れた。

要から貰ったマスクケースは大切にしまっている。

悠里は要から貰ったマスクケースを絶対に使わないし、絶対に捨てないと決めている。


「今日は、要先輩と買った楽譜も持っていこう」


悠里は大切にしまっている楽譜を通学鞄に入れ、それから、要からもらったフラワーバスケットに目を向けた。


「フラワーバスケットってどうやってお水あげたらいいんだろう? 霧吹きとかで水をあげるのかな? あとで調べなくちゃ」


悠里はそう呟いて制服に着替え、それまで来ていた部屋着を洗濯カゴに入れるかどうか迷った末に、洗濯カゴに入れることにした。

少しの時間しか着ていない部屋着だけれど、頑張って料理をしたので汗をかいたような気がして、再び着たくはなかったのだ。

洗濯物が増えると母親が文句を言うかもしれないが、今朝は寝坊して祖母に朝食を作ってもらったのだから、洗濯は頑張ってもらいたい。


制服に着替え終えた悠里は部屋着を洗濯カゴに入れ、洗面所の鏡の前で髪を梳かし、ポニーテールに結い上げる。

学校に行く支度を終えた悠里がダイニングに足を踏み入れると、母親はまだのんびり朝ご飯を食べていて、祖父は緑茶を飲んでいる。

祖母は朝ご飯を食べ終え、サンドイッチの具を挟んで切り、プラスチック容器に綺麗に並べてくれていた。


「わあっ。綺麗……っ」


悠里は祖母が綺麗に並べてプラスチックの蓋をしてくれたサンドイッチを見て歓声をあげる。

サンドイッチの具は左から順番に、ポテトサラダ、卵、ハムとレタス、ハムとチーズ、カスタードクリームとバナナだ。


サンドイッチの断面が色鮮やかで美しく、おいしそうだ。

まるでパン屋で売られているサンドイッチのようだと悠里は感激した。

祖母は悠里と要の二人分のサンドイッチをきちんと用意してくれている。

それから祖母はから揚げと卵焼き、ミニトマトが入ったプラスチック容器も二人分用意してくれた。


「悠里、今日部活に行くなんて知らなかった。お祖母ちゃんにお弁当作りまでさせて申し訳なかったわ」


朝ご飯を食べながら母親が言う。そういえば悠里は今日部活に行くことを母親には伝えていなかった。


「いいのよ。お母さん。私は悠里と一緒にサンドイッチを作れて楽しかったから。悠里は上手に卵サンドの具を作れたのよね」


「うんっ」


微笑んで言う祖母に悠里は肯く。


「そうなんだ。悠里が作った卵サンド私も食べてみたい」


母親がそう言うと、祖母が困った顔をして口を開いた。


「卵サンドの具はお弁当で使い切ってしまったからもう無いのよ」


「そうなんだ。じゃあ、帰ってきたら悠里、作ってね。夜ご飯に食べる」


「ええ……。嫌だ……」


悠里は今朝のサンドイッチ作りで燃え尽きたので、要に喜んでもらう以外の理由で料理をしたくない。


「でもなんで二人分あるの? 一人分でよくない? もしかして晴菜ちゃんの分?」


お弁当の物量を見て母親が首を傾げる。


「女子にはいろいろあるんだよ。お母さん」


悠里は母親にそう言って微笑む。


祖母は用意したサンドイッチとおかずを保冷仕様のエコバッグに入れ、それから保冷剤を入れた。

五月とはいえ、お弁当を常温で持って行かせるのは心配だ。


新型コロナに気をつけるだけでなく、食中毒やノロウィルスにも気をつけなければならない。

割り箸を二膳入れ、携帯用のウェットティッシュを入れてから、祖母は悠里に視線を向けて口を開いた。


「悠里は携帯用のアルコール消毒液は持っているのよね?」


「うん。ちゃんと通学鞄に入れてるよ」


「そう。手を洗って、アルコール消毒をしてからお弁当を食べるのよ」


「はあい」


祖母の言葉に肯き、悠里は祖母が用意してくれたお弁当等が入ったエコバッグを玄関前に置きに行く。

その後、通学鞄とスマホを取りに二階の自室に向かった。


***


高橋悠里の父親の名前は高橋優一。


祖父の高橋龍一の『一』と優しい子になってほしいと『優』の字を組み合わせて『優一』になった。


名付けたのは祖母の麗奈。祖父は息子に『虎』がつく名前をつけたかったが(自分が龍なので龍虎にしたかった)祖母が嬉しそうに『優一』にしたいというので従った。



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