第五百二十八話 高橋悠里たちが祖母が用意した朝食を食べている時、寝坊した母親がダイニングに姿を現す



ポテトサラダと卵サンドの具はプラスチック容器に詰め替えて冷蔵庫に入れられ、平皿に乗った卵焼きにはラップが掛けられた。


祖母は鳥のから揚げを作り、悠里と祖父は揚げたてのから揚げをおいしく食べた。

祖母は鳥のから揚げを作り終えると、鯖の水煮缶と大根で味噌汁を作り、小ねぎをちらし、それから昆布のおにぎりを悠里と祖父、祖母の朝食に作ってくれた。


「お祖父ちゃん。悠里。今朝は手抜きご飯でごめんなさいね」


「全然手抜きじゃないよ!! お祖母ちゃん!! 卵焼きを食べて、ポテトサラダを味見して、揚げたての鳥のから揚げを食べての昆布のおにぎりとお味噌汁だよ。全然手抜きじゃないよ!!」


悠里のために早起きをしてお弁当を作ってくれた上に朝食を作ってくれたにも関わらず謝る祖母に、悠里は拳を握りしめて力説した。

祖父も悠里の言葉に何度も肯いている。

祖母が悠里と祖父に微笑んた直後、母親があくびをかみ殺しながら、ダイニングに入ってきた。

部屋着に着替えてはいるが、髪には寝ぐせがついている。


「おはよう。みんな」


雑な挨拶をする母親に、家族それぞれが挨拶を返す。

悠里は昆布のおにぎりを一口食べて飲み込み、口を開いた。


「お母さん。今朝は遅くまで寝てたんだね」


「昨日、眠れなかったから『アルカディアオンライン』をプレイしたのよ。ゲームを始めたら、ものすごく面白くてうっかりプレイ時間6時間めいっぱい遊んじゃって、寝不足なの……。今日は悠里が学校休みだから油断しちゃった。『アルカディアオンライン』ヤバいわ。アレ。プレイ時間無制限だったらゲーム廃人になる人いるわ。絶対」


「お母さん。昆布のおにぎりとお味噌汁、食べる?」


問いかける祖母に、母親は勢いよく肯き、口を開いた。


「食べるっ。寝坊してお祖母ちゃんが作ってくれたご飯を食べられる朝、めちゃくちゃ幸せ。生きててよかった」


母親はにこにこしてそう言いながら、自分の席に座る。

祖母は母親の分の味噌汁とおにぎりを用意するために席を立ち、動き始めた。


「お祖母ちゃん、朝ご飯食べてる途中なんだから、お母さんが自分でご飯の用意すればいいのに」


唇を尖らせて悠里が言う。祖父は心の中で激しく悠里に同意したが表には出さない。

うっかり母親に口答えをすると、三倍になって返ってくると身に染みている……。

祖母は悠里を窘めるように微笑み、首を横に振る。


「悠里。お母さんはいつもご飯を作って家事を頑張ってくれているんだから、たまには寝坊して人にご飯を作ってもらってのんびりしないとね」


「そうよそうよ!! お祖母ちゃん、ありがとう……!!」


朝ご飯作りをサボる嫁と、嫁をかいがいしく世話する姑。

嫁姑間のバトルは、高橋家では起こらない……。

悠里は祖母が用意された朝ご飯を食べながら、うちは平和だなあとしみじみと思った。

高橋家の平和は優しい祖母が守ってくれているのだ……。




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