第五百二十六話 高橋悠里と祖父はポテトサラダの味見をして祖母に助けを求め、ゆで卵の殻を剥く
祖母がポテトサラダを取り分けるための銀色のボウルとマヨネーズ、塩とブラックペッパーの小瓶をダイニングのテーブルに置く。
「悠里。このボウルにポテトサラダを取り分けて、味付けしてみて」
祖母は悠里にそう言って、キッチンに戻っていく。
悠里は自分が潰したじゃがいもと塩もみして水気を切ったきゅうりとたまねぎ、ハムを入れた味付け前のポテトサラダを三分の一くらい、祖母が持ってきてくれた銀のボウルに移す。
そして塩を振り、マヨネーズを入れて混ぜた後、遠慮がちにブラックペッパーの小瓶を振る。
「とりあえず、これで味見をしてみよう」
悠里はそう呟いて食器棚から小皿を、引き出しから銀の小さなスプーンを手にする。
祖父は読んでいた朝刊をテーブルに置き、悠里に視線を向け、口を開いた。
「悠里。お祖父ちゃんも味見してやるぞ」
「本当? ありがとうっ。じゃあ、お祖父ちゃんの分の小皿とスプーンも用意するね」
悠里はそう言って自分の分の小皿と銀の小さなスプーンをテーブルに置き、祖父の分の味見のための小皿と銀の小さなスプーンを用意してポテトサラダを掬い、小皿に乗せて祖父に差し出す。
「お祖父ちゃん。味見、よろしくお願いしますっ」
祖父は重々しく肯いて悠里からポテトサラダが乗った小皿を受け取る。
悠里は自分も味見をするために小皿にポテトサラダをよそい、ひとくち口に運ぶ。
……微妙? なんだかぼやけた味がする。
「悠里。まあまあおいしいと思うぞ」
祖父の言葉に悠里は懐疑的な気持ちになり、口を開いた。
「お祖父ちゃん。それ本当の本音?」
悠里の問いかけに、祖父は目を逸らして小皿に盛ったポテトサラダを全部食べた。
祖父の優しさのせいで、ポテトサラダの本当の味がわからない……。
黒コショウをもっと振った方がいいの? それともマヨネーズを足した方がいい?
悠里が迷って困っていると、祖母が、茹で上がった卵を入れたざるを重ねた銀のボウルを持ってダイニングに入ってきた。
「悠里。ゆで卵ができたから、卵の殻を剥いて潰して、塩とマヨネーズと黒コショウを振ってちょうだい」
「お祖母ちゃん。ポテトサラダの味付け、うまくできない……」
「そう? 味見するわね」
祖母は自分が味見をするための小皿と銀の小さなスプーンを手にして悠里が味付けをしたポテトサラダをスプーンでよそい、味を見た。
新型コロナが蔓延しているせいで、家族の間でも、同じ食器やスプーンを使わないようにしていることを悠里は面倒くさいし、寂しいことだと思う。
以前、新型コロナが無かった頃は、家族で同じ食器を使って回し食べもしていたのに……。
「もう少しマヨネーズと黒コショウを足せばいいんじゃないかしら。やってみて」
「お祖母ちゃん、やって……」
悠里が祖母に甘えると、祖母はため息を吐き、手際よくポテトサラダにマヨネーズを足して混ぜ、黒コショウを振った。
「スプーンを洗ってくるから、その間にゆで卵の殻を剥いてね」
「はあい」
悠里は祖母に言われた通りにゆで卵の殻を剥き始めた。
「悠里。お祖父ちゃんも手伝おうか?」
「本当っ? 嬉しい。ありがとうっ。じゃあ、手を洗ってきてね」
「わかった」
祖父は席を立ち、洗面所に向かう。
悠里はまだ熱いゆで卵にヒビを入れ、不器用な手つきで剥き始めた。
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