第四百十一話 マリー・エドワーズは港に向かう馬車の中でログアウトする
領主との話し合いを終えたマリーたちは領主館を出て、馬車で港に向かう。
いつの間にか雨は止んでいて、夜空に紫色の月が輝いている。
マリーたちは二台の馬車に分かれて乗った。
一台めの馬車にはレーン卿、アーシャ、イヴとバージルが乗り、二台めの馬車にはマリーと真珠、ユリエルと情報屋が乗る。
ユリエルの隣にマリーが座り、マリーの膝の上に真珠が乗る。
ユリエルたちの向かい側の座席には情報屋が一人で座っている。
馬車がゆっくりと走り出した直後、ユリエルがマリーに視線を向けて口を開いた。
「マリーちゃん。俺、船に乗ったらいったんロ……じゃなくてゲームを終了するね。午前中もゲームをプレイしてたから、船に乗り続けてたら制限時間に引っかかると思うんだ」
「じゃあ、私もいったんロ……じゃなくてゲームを終わりにしますっ。私も午前中にゲームをしていたので……っ」
ユリエルの言葉を聞いたマリーが言うと、情報屋も肯いた。
「私も午前中にゲームをプレイしていたので、船の船室に入ったらゲームを終了します」
情報屋の言葉を聞いたユリエルは少し考えてマリーを見つめ、口を開く。
「じゃあ、先にマリーちゃんがゲームを終わりにする? 眠ったマリーちゃんと真珠くんは騎士に運ばせるよ」
マリーは以前、ウォーレン商会の会頭との問答のさなかに強制ログアウトしたことを思い出し、今度こそはきちんとクエストの達成や未達成を見届けたいと思いながらユリエルと視線を合わせて口を開いた。
「私、ユリエル様の言葉に甘えて今、ゲームを終わりにしますね。私と真珠をどうぞよろしくお願いします」
「うん。任せて。マリーちゃんはまだ小さいし、真珠くんも子犬だから、馬車で眠ってしまってもNPCの騎士に違和感を与えることはないと思う」
マリーの膝の上に座っている真珠は、マリーとユリエルの会話をおとなしく聞いている。
マリーは真珠を撫でながら口を開いた。
「真珠。これから私はログアウト」
マリーはログアウトした。真珠もマリーの膝の上でこてんと眠る。
「マリーちゃん。つい、言っちゃったんだね」
ユリエルは眠ってしまったマリーの頭を自分の肩にもたれさせながら言う。
ログアウトやリープと口にすると、その効果が現れてしまう。
『アルカディアオンライン』のゲームシステムはプレイヤーがログアウトを意図して『ログアウト』と言っているのか、それとも『ログアウト』という言葉を使って会話をしているだけなのかということを判断することはできないようだ。
悠里が目を開けると、自室の天井が視界に映る。
どうやら、ログアウトしたようだ。
「真珠に『これからログアウトするね』って言おうと思ったのに。あー。ログアウトって言っちゃってた。私」
そう言いながら悠里は横たわっていたベッドから起き上がり、ヘッドギアを外して電源を切る。
それからゲーム機の電源を切った。
ヘッドギアとゲームをつなぐコードはそのままにしておく。
「今何時だろう……? お腹痛い」
悠里の部屋には時計がないので、時間を確認する時はいつもスマホを見る。
悠里は生理の下腹の痛みを無視して大きく伸びをして、屈伸を三回した後、スマホを手に取った時間を確認した。
15:03。おやつの時間だ。
悠里は、トイレに行って、おやつを食べようと思いながら自室を出た。
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