第八十三話 高橋悠里は幼なじみと通話して、憧れの先輩とメッセージのやり取りをする
目を開けると自室の天井が視界に映る。
ログアウトできたようだ。
悠里は横たわっていたベッドから起き上がり、ヘッドギアを外した。
そしてヘッドギアの電源とゲーム機の電源を切り、ため息を吐く。
「やっぱりロールプレイしながらゲームをプレイするとか無謀なのかなあ……」
悠里は圭に相談してみようと考えて、机の上に置いたスマホを手に取る。
「うわっ。はるちゃんからの着信がすごい」
何か急用だろうか。悠里は晴菜に直電した。コール音一回で繋がる。
「はるちゃん? 何回も電話かかってきてたみたいだけど何か急用?」
「悠里。なんで出ないのよっ。今までなにしてたのっ!?」
「『アルカディアオンライン』をやってたの。ごめん」
「デートから帰って即行ゲームとか、お兄ちゃんじゃないんだから……」
「圭くんってデートから帰ったらすぐにゲームするの?」
「そうだよ。一回目のデートでフラれる確率100パーセントだから、ヤケになってゲームに走る気持ちもわかるけど」
晴菜はそう言った直後に沈黙する。
「はるちゃん?」
「まさか、そういうこと? 悠里、藤ヶ谷先輩にフラれちゃったの……?」
「フラれてませんっ。告白してないし、する気もないしっ」
「デートで大失敗したとか?」
「してない……と思う。駅ビルの楽器店を一緒に見て回って、楽譜を買って、それからフローラ・カフェでお喋りして、その後に牧高食堂に行って」
「なんでそこで牧高食堂が出てくるのよ」
「お昼に牧高食堂の牛丼をテイクアウトして食べた話をしたら、先輩が行きたいって」
「牛丼……」
「私も牛丼は女子が食べるには可愛くないメニューだったなって、言ってから後悔した」
「それで、先輩は牧高食堂で何を買ったの?」
「牛丼を二人前」
「そう。じゃあ、悠里が牛丼を食べる系女子でも引かれてないんじゃない?」
「そうかなあ」
「そうだよ。ねえ。洋服とか髪型とか、先輩なにか言ってくれた?」
「『編み込み似合うね。服も可愛い』って」
「編み込みっていうワードがさらっと出てくるあたりすごいよね。先輩。中二男子とは思えない女子力」
「はるちゃんのおかげで褒めてもらえたよ。ありがとう」
「どういたしまして。とにかくデートがうまくいったみたいでよかった」
「デートじゃないもん。……でも楽しかった」
「それならよかった。デートの報告、悠里から直接聞きたかったの」
「気に掛けてくれてありがとう。はるちゃん」
「いっぱい電話してごめんね。もうすぐ晩ご飯だから切るね」
「うん。じゃあ、またね」
悠里と晴菜は通話を終えた。
「はるちゃんがご飯っていうことは圭くんもご飯だよね。相談はメッセージで送ろう」
悠里が圭に、ロールプレイをしながら『アルカディアオンライン』をプレイするためにはどうすればいいかという相談を送信した。
その直後、スマホにメッセージが届く。要からだ。
「藤ヶ谷先輩……っ」
悠里のメッセージに返信をくれたのだろうか。
悠里は深呼吸をして、緊張しながら要のメッセージを読む。
♦
今日は一緒に過ごせて楽しかった。ありがとう。
牛丼、母親と食べたけどすごくおいしかった。牧高食堂の他のメニューも食べたくなったよ。
部活が始まったら一緒に買った楽譜を見ながら、サックスを吹けたらいいね。
また、高橋さんと一緒にどこかに出かけられたらいいなって思ってる。
行きたいところとかあったら教えてね。
♦
悠里は要からのメッセージを何度も繰り返し読み、それから悩みながら返信した。
♦
私もまた先輩とお出かけしたいです。先輩と一緒ならどこでも楽しいです。
できれば、公園とかで先輩のアルトサックスを聞きたいです。
♦
悠里は自分の書いた文章を何度も読み直して、それからメッセージを送信した。
その日の高橋家の晩ご飯は、おでんと悠里が買って来た牧高食堂のハムカツだった。
悠里は要とのお出かけやメッセージのやり取りで胸がいっぱいで、ご飯が食べられないような気がしたけれど、気がつくと自分の深皿に大盛に盛られたおでんとハムカツを食べ終えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます