第33話 オレ⑫
武器の扱い方の講習は2月開催分を申し込んだが、他に受ける人がおらず、講師のベテラン傭兵と1対1で、時間も食堂が終わってから指導してもらえることになった。元々希望者が少ないのに、冬の寒い時期は痛さが倍増するから、この時期は誰も受ける人がいないらしい。そういうことは先に言って欲しかった。
見習い用の依頼については、講習中でも行なえるものを回してくれるとのことだが、時間は分からないので、ボーネン食堂で朝から働くお願いをしてみる計画はひとまず保留だ。
1対1なので、付きっきりで武器の特徴と基本的な使い方、素振り、手入れ方法を教えて貰えるのだが、しかも実体験に基づいた知識を分かりやすく教えてくれるのだが、それ以外は模擬戦、そう、自分よりもかなり技量が上のベテラン傭兵と延々模擬戦なので、正直、逃げ出したくなることもある。辛いし、痛いし。模擬戦用のやたらと四角い不格好だが頑丈な鎧と木製の武器を使っているけれど、痛いものは痛いのだ。冬だもの。
ちなみに講師は、何回か受付で話したことがある、頬に傷痕がある素敵な声のおじさんだった。何でも10年くらい兵士をやったけど、自由に動けない仕事に嫌気がさして傭兵の道を選んだのだとか。傭兵も10年やってるから組合長とも仲が良くなって、たまに受付を代わってやってるんだよ、と嬉しそうに話してくれた。ついでに講師の仕事は内容の割に結構報酬が良い部類らしく、お前も講師になれるように頑張れよと、素敵な声で励ましてくれた。木製のメイスで殴りながら。
直剣、細剣、メイス、マインゴーシュ、大型ナイフ、槍、ハルバード、大型剣、クロスボウ、弓、鉄籠手、それから三角盾と大型の盾の使い方を徹底的に叩き込まれたお陰で、講習の最終日に近づくにつれて模擬戦で一方的にやられることはなくなっていった。もっとも、講師のおじさんには勝てる気がしないけど。
ところで講習を受けて初めて知ったことがいくつかあった。
一つ目は矢の当て方だ。動物は当たるようにそのまま狙えば良いが、鉄の防具で守られている人間をそのまま狙っても、鉄が無いところに当たれば良いが、大体は跳ね返されてしまうらしい。だから、そういう場合には高いところから射るか、山なりに矢を放って、落下する勢いを借りて鉄板を貫くように頑張るんだぜ、とおじさんが教えてくれた。まっすぐ当てるのも難しいのに山なりで当てろとは……、いったい何年修行を積めば良いのだろう?
二つ目は盾だ。鉄籠手と
*
傭兵見習いとしての仕事は、2月は、終わり頃に1回だけあった。
依頼の説明の際に指導役の傭兵が紹介された。歳は30歳手前くらいか、冬なのに浅黒く焼けている肌が体格と相まって強そうに見える。身長はオレより15センチ高い180センチくらいだろう。よろしくと短く挨拶をされた。寡黙なアニキという雰囲気だ。
依頼の内容は、イヌイ南東の水路近くにある倉庫に泥棒に入られた商人から、しばらくその倉庫を警備して欲しい、というものだった。都合のつく傭兵が1コマ2時間で4人ずつ交代の警備を行なうことになり、今回はその一部、朝6時から8時までの1コマを5日間で計5コマやらせてもらえる。報酬は1コマ銀貨4枚だが、オレは見習いということで1コマ銀貨1枚と銅貨30枚だ。だいぶ差がある。早く認めて貰わなければ。それにしても朝8時までとは、11時から食堂で働いているから配慮してくれたのかな?ありがたい話だ。
そうそう、装備品はキュイラス以外は全部揃えたから、キュイラスだけ組合の貸出品だ、1日銀貨1枚の。つまり、報酬は実質、1日銅貨30枚というわけなのだよ……。むむぅ……。早く、早く認めて貰わなければ……。
準備を前日までに済ませて、いよいよ初めての傭兵の仕事の日だ。いつもの服装に加えてズボンの上からもう1枚ズボンを重ね、丈の短いブーツから丈の長い丈夫なブーツに履き替える。ベストを脱ぎ亜麻のシャツの上に分厚いバフコートを羽織って前紐を留め、借り物のキュイラス、革の頭巾、鉄兜を緩みが無いように順番に装着していく。その次はキュイラスのベルトに赤茶けたソードベルトと、自分から見てお腹のやや右あたりにナイフ用のホルダーを取り付けたら、小型ナイフ、マインゴーシュをホルダーに、スモールソードを鞘ごとソードベルトに、順番に収める。
最後は革の手袋を……、の前にベルトポーチを付け忘れていたな。キュイラスを締めているベルトの先を一度バックルから外してベルトポーチに通し、またベルトを締める。
最後に、バフコートの上から装着できるように、履き口の口径が大きくなっている革の手袋を履き、左手にはその上から鉄籠手を装着してオレの傭兵装束の完成だ。
これで完璧だと思って待ち合わせ場所に行ったのだけど、鉄兜のあご紐とキュイラスのベルトの締め方が緩いとアニキに言われてしまった。締め方が緩いと簡単に外れて身を守れなくなるから念入りにしっかり締めろ、特に鉄兜は大事だ、ということだ。
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