第32話 オレ⑪
「はい、これがスヴァン君の登録票です。見習いといえどもなくさないようにして下さいね」
そわそわしながら噴水広場で待機して、10時の鐘が鳴り始めるたらすぐに小走りで傭兵組合に向かい、登録票を受け取った。
見習い用の登録票は、厚めの楢材の板に名前、その並びに登録した町名と傭兵組合の文字が彫られ、それから反対の面には三角盾の前に剣と籠手が斜めに交わる傭兵組合のシンボルが焼き印されている。板の一端には穴があけられていて、長めの革紐が通してあり、ネックレスのように首からぶら下げるのだろう。
「ふああああ!格好いい!お兄さん、これ格好いいです!」
両手で登録票を持って何度も上に持ち上げたり右や左に傾けて、興奮気味にまじまじと見る。
「そうですか。気に入ってもらえて何よりです」
お兄さんも嬉しそうに表情を緩める。
「登録票は肌身離さず、いつも身に着けて下さいね。特に小型ではない武器類を持ち歩くとき、組合で依頼を受注するときと報告するときは必ずです」
「はい、分かりました!」
自分の頭にちゃんと入っているかどうかは疑わしいが、ともかく肌身離さず持っていればよいことだけは理解した。
「次は依頼の受注について説明します。基本的には組合が依頼を割り振ります。それ以外の、開始まで余裕があって、誰がやっても問題ないだろうという依頼は、木の板に書いて、入口入って右にある掲示板にぶら下げておくので、それを受付まで持って来てください。あ、依頼を書いた木の板を依頼票と呼んでいます。依頼の内容と受注したい人の実績を考慮して、受付で許可したら受注できます。任せられないなと思ったら受注出来ません。ちなみに見習いの間は、こちらから割り振る仕事だけ受注出来ます。ここまでは大丈夫ですか?質問は?」
「はい、何とか。んー、質問もないです」
「はい。では、依頼が終わった後の報告についてお話ししましょう。領主、代官、クニヒト、町長、村長、或いは王国の役所からの依頼については、それぞれの依頼の内容に応じて、見届け人か報告の担当者がいますので、まずはその人に報告し、その後に依頼を受注した傭兵組合に報告してください。傭兵組合には別途、依頼終了の連絡があるので、そこでようやく報酬を受け取れるようになり、依頼が終了します。あ、書き残さなくても大丈夫ですよ、依頼ごとに手順は説明されますので」
流石に覚えていられなさそうになったので、蝋板に書きながら聞こうと思ったが、そういうことなら大丈夫か。
「民間人からの依頼の場合、主に商人の護衛や警備ですね、ごく稀に貴族からの個人的な依頼もありますけど、その場合には終わったら依頼票の裏にサインか蝋印をもらって、依頼を受注した組合にその依頼票を提出してください。依頼料は前金でもらうので、確認したらその場で報酬をお支払いします。大丈夫ですか?質問は無いですか?」
「あ、はい、大丈夫だと思います。それで、依頼主が字が書けなかったり、ペンとインクを持ってなかったり、蝋印を持ってない場合にはどうすれば良いでしょうか?」
「あまり例は無いですけど、その場合には依頼主と一緒に報告に来ていただければ大丈夫ですよ」
「分かりました。有難うございます。あと、依頼とは別の話なんですけど、質問しても良いですか?」
「はい、遠慮なくどうぞ」
「武器や防具はいつ買ったら良いですか?」
「おや、お持ちでないんですね?」
「はい、前に別の人から揃えておいた方が良いものを教えて貰ったんですけど、まだお金が足りなくて、
「キュイラスなら傭兵組合で貸し出せるのがあるので大丈夫ですよ。1日銀貨1枚になります。他に鉄兜も貸し出せますよ。あまり借りる人もいませんし、いかがですか?」
お兄さんが素敵な笑顔で答えてくれた。なぜだろう、借りたくなってしまう。
「それは良いですね。キュイラスが必要になったら借りるようにしますね」
「はい、よろしくお願いしますね。他に何か質問は無いですか?」
「あ、前に教えて貰った講習なんですけど、どういう感じなんですか?料金とか、期間とか、武器と防具は必要かとか知りたいんですけど」
「講習は今のところ、未経験者向けに4種類用意していて、武器の扱い方、警備と護衛、対人制圧術、狩猟ですね。基本的に組合にある訓練用の武器と防具を使うので、自前で準備する必要はありません。期間と料金はバラバラですね。一番期間が長いのは武器全般の扱い方で、本格的な訓練もあるので24日間かけてみっちり行ないます」
むむ、意外と長いな。食堂の仕事は大丈夫かな。
「次に長いのが狩猟ですね。これは獲物が狩れるかどうかで期間が変わりますが、長いと2週間くらいはかかるでしょうか。ちなみに狩猟の講習は弓と大型ナイフが扱えないと受けられません。警備と護衛、対人制圧術の2つはそれぞれ2日間ですね」
弓と大型ナイフは使ったことがないから武器の扱い方講習が先になるな。対人制圧術も気になるけど、武器の扱い方を先に覚えないと。
「料金は基本的に1日あたり銀貨4枚かかると思って下さい。いずれもベテランの傭兵や猟師に教えて貰えるので、良い勉強になりますよ。あ、そうそう、武器の扱い方、警備と護衛、対人制圧術の講習は1日2時間です。狩猟講習は実際に森に入って狩りをするので、終わるまでずっとですね、時間関係なく」
1日2時間なら大丈夫そうだけど、狩猟は食堂の仕事を休まないと無理だな。傭兵の仕事のときは休ませて下さいとは、働き始める前に言ってあるけど、狩猟講習のときもお願いしないといけないな。
「ところで、狩猟以外の講習の時間というのは、融通が利くものなんでしょうか?食堂で15時まで働いているので」
「あ、噴水広場のボーネン食堂ですね。スヴァン君が働いているのを見かけたことがあります。私も何回か食べに行ったことありますが、あそこのアイントプフは美味しいですよね。最近は全然食べてないから、いずれまた食べに行きたいところです」
どうやら思ってた以上にあそこの食堂は評判が良いらしい。
「おっと、講習の時間の話ですよね。他に受ける人がいなければ、講師と話し合って2人で決めて大丈夫ですよ」
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