第31話 オレ⑩
今日もいつもの時間に起きて、小さい暖炉にいつものように火を点け、いつものように井戸端でご近所さんに挨拶をしつつ、いつものように顔を洗って1日が始まる。
孤児院の水汲みは12歳の女の子と11歳の男の子が2人でやることになったようだ。2人ともよく気が利くから、良い水汲み職人になるだろう。水汲み職人が何のかは分からないが。
昨日までと変わることは、井戸のそばにある共同の炊事場で朝食の準備をすることだ。不便は無いけれど、薪は炊事場を利用する人たちで持ち寄って在庫してあるものだから、在庫が減ったら買ってこないとな。
共同炊事場には机と椅子もいくつか置いてある。孤児院にいるときは気が付かなかったが、調理したものをそこで食べる人が多く、また、料理や食材を交換したりお裾分けする人もいて、住民たちの交流に一役買っているようだ。
朝食と身支度を済ませたら、傭兵組合に向かう。武器や防具はまだ買ってないから普段着だ。土が踏み固められた人3人分くらいの幅の道を東へと歩き、石畳の噴水広場を目指す。そこから、ボーネン食堂の脇の路地に入り、また踏み固められた土の道をくねくねと北東を意識して進み、石畳の道に出たらすぐに傭兵組合の建物が見える。
開け放たれている扉を抜けて受付にいるお兄さんに登録の話をする、予定だったが、時間が早すぎたようで、まだ組合は開いていなかった。
どうやら気持ちが先走り過ぎてしまったようだ。10時の鐘がなったらもう一度来て、その後、食堂で働こう、その作戦で行こう。
一旦、噴水広場で適当に時間を潰して、10時の鐘が鳴り始めたところで再度、傭兵組合に向かうと今度は鍵が開いていた。今の時期は寒いから、入口の扉は開け放たれていない。扉を開けて最初に目に入る受付にいたのはいつものお兄さんだ。
「お早うございます」
「やあ、おはよう、スヴァン君。今日は何の用かな?」
「オレ、15歳になったので、登録しに来ました」
「あー、そっか、そう言えば14歳だったよね。成人おめでとう。登録の説明をするからちょっと待っててね」
そう言うとお兄さんは、ごそごそと下から木箱を取り出してカウンターの上に置き、その木箱から蝋板と
「まずはお金の話をしましょうか。最初の登録料は銀貨1枚で、これは見習いとしての登録ですね。見習いの間は指導役の傭兵と一緒に仕事をしてもらいます。何回か依頼をこなしたら傭兵を続けるかどうか確認するから、続ける場合は正式な傭兵登録ということで銀貨10枚かかります」
「あの”何回か”というのは具体的には決まってないんですか?」
「ええ、決まっていないんですよ。指導役が、こいつなら大丈夫だろう、と思ったら見習い終了だと思って下さい。それから、字の読み書きは出来ますか?」
「あ、はい、出来ます。孤児院で教えて貰いました」
「なるほど。ちなみに計算も?」
「はい、簡単な足し算、引き算、掛け算、割り算は大丈夫です」
「それは良いところで育てられましたね。その年齢だと貴族と商人以外は読み書きできる人って少ないんですよね。傭兵で色々な仕事をやるとなると、読み書きも計算も出来た方が有利なんですけど。そうしたら、こちらにお名前と住んでいるところを書いてみて下さい」
そう言われて渡された蝋板に、名前と住んでいるところを書いて、お兄さんに戻した。
「おや、お名前、スヴァンじゃなくてスヴァンベリなんですね」
「そう……ですね。いつも縮めてます。ほんの少ししか縮まってないですけどね」
「じゃあ、登録はスヴァンベリで。後は見習い用の登録票を作るので、明日以降、また来てください。登録票を持たないで剣とか槍を持ち歩くと、衛兵さんに怒られちゃいますから気を付けて下さい。あ、銀貨は持ってたら今、払って下さいね」
明日か、登録票は明日貰えるのか。とすると、いよいよ明日から見習いとは言え傭兵なんだ。登録票はどんな感じなんだろう。楽しみだな。今夜眠れるかな。
傭兵組合で登録手続きをした後の、食堂の給仕の仕事も
*
「くぁぁー……、ん、んー」
今日も晴れて良いお天気だ。
昨晩は結局ぐっすり眠れて、いつも通り、7時の鐘が鳴り始めるほんの少し前に起きた。
今日は何をしようか。
まず、傭兵組合に登録票を取りに行って、有料の講習のことを聞いて、武器と防具をいつ買ったらよいかも聞こう。その後はいつも通りボーネン食堂でお仕事だ。
そう言えば、朝食を食べてから食堂の仕事まで結構時間が空くから、もう少し早い時間から働けないか店主に相談してみようか。11時開店だから、その前に手伝えることもあるかも知れない。
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