第506話 わんこの我儘

「ウォンッ。ワフワフ、ウォウッ。ウォンッ」

「そうか、終わったか」


 ティータイムとしゃれこんでいたら、突然ラックが俺に鳴いた。


 詳しい話を聞いたところによると、どうやらブリタニーア王国の王室の救援が終わったらしい。


「どうしたの?」


 俺とラックの会話が気になった天音がお茶を一口飲み終えた後で俺に尋ねる。


「どうやら王室の方は持ち直したみたいだ。今は残党狩りをしているそうだ」

「流石ね。仕事が早いわ」

「エルフたちはダンジョンで滅茶苦茶鍛えたし、自分達でも潜ってみたいだからな」


 別に隠すような除法にラックから聞いた情報を教えてやると、零がエルフたちの仕事に感心する。鍛えられたエルフたちはどのくらい強くなっているか分からないが、少なくとも弱い魚人程度に後れを取ったりはしないだろう。


「さて、こっちはどんな状況だ?」


 英国の女王が指揮をとっていた戦線はどうにか終息に向かっているが、アグネスの方の状況は暫くティータイムと称して全く見ていなかったので確認をする。


「そろそろ終わりそうじゃない?」

「そうみたいだな」


 戦況を見ながら呟く天音に対して、俺も改めて戦場を見ると、もうほとんどの魚人が残っていなかった。


 これなら早晩戦いは終わるだろう。


「そろそろ次に救援が必要な所に行くか」

「そうだね。それなりに休んだから私は平気だよ」

「ん」

「私もイケるわよ」

「私も問題ないわ」


 消化試合に入ったところで皆に提案したら、全員美味しいお茶を飲んだことで英気が養われ、次の戦場に向かう力が充電されていた。


「よし、ラック、次に救援必要そうなのはどこだ?」

「ウォン……」

「何? 必要な場所はあるけど、行きたくない? どうしてだ?」


 しかし、俺はラックに次に救援必要な場所を尋ねたら、ラックは嫌そうな顔をして俺に行きたくないと首を振る。


 ラックがそんなことを言うなんて初めてなので、俺は少し責めるような口調で聞き返してしまった。


「ウォウォン……」

「言いたくないか……どうしたものか……」


 しかし、それでも悲し気に顔を歪めて頑なな態度を取るラック。


 俺としては新しいラックの事は信用しているが、流石に人の命が掛かっているので、そのままということにもできない。


「ラックにも何か考えがあるんでしょうけどね。それが何かは分からないけど」

「そうだなぁ……俺も一体何があったのか教えてもらわないと判断できないんだよなぁ」


 天音が言うことは俺も分かってはいるんだけど、何も教えてもらえないんじゃこっちも判断材料なくて何も決断できない。


「多分助けたくない相手がいる。だから助ける相手はラックに任せればいい」


 しかし、何かを察したらしいシアが唐突に口を開く。アホ毛に天に向かって飛び上がり、時折痙攣を起こしていた。


 その内容には思いがけない内容が含まれていた。ラックに助けたくない存在いるなんて考えもしなかった。


「ほう。そうなのか?」

「ワフッ」


 俺のラックに視線を戻して問い返すとラックは大きく頷いた。


 詳しい理由は分からないが、ラックには助けたくない人間がいるらしい。ラックが助けたくないと言うことは、恐らく俺達に対して何らかの不利益が与えた人間いたということだ。


 アメリカでの一件を考えると、あのSSSランク探索者とかいう嘘をついたあの男くらいしか思いつかないが、もしかしたら俺の知らない所で何かあったのかもしれないな。


 そうなるとラックに任せる以外に方法はない。


「そうか。それならお前が助けてもいいと判断した部分だけ手助けするってことならいいんだな?」

「ウォンウォンウォンッ」


 俺の確認した条件にラックは何度も頷く。


「分かった。そこまで言うならアメリカはラックに全て任せよう」

「ワフッ」


 そこまで助けたくない奴がいるのならラックが好きなようにやってもらう他ない。ラックが機嫌を損ねたら俺達は転移さえできないからな。


 俺がご主人様ということになっているけど、ラックこそが俺達の頂点と言っても過言ではない。ラックがいるからこそ俺達は世界中で活動できるんだからな。


「さっきは怒るように言ってしまって悪かったな。許してくれ」

「ウォウォンッ」


 まさかそんな事情があるとは思わず、怒鳴るような口調になってしまったこと似たしいて頭を下げたら、ラックは俺の頬を舐めて気にするなと鳴いた。


「ははははっ。くすぐったいっての。分かったよ。それじゃあ任せたぞ?」

「ウォンッ」


 ラックは自分の影に潜り、任務を果たすため、アメリカへと転移した。


 俺達のティータイムはそのまま延長。

 

 はてさてラックはどのような結果を残してくるのか。


 俺はそれが少し心配になってきた。


 なんだか俺達がいない所では結構な無茶をやりそうだからな。何かとんでもないことを起こしてしまうことも考えられる。


 俺は不安になりながらも、ラックが向かったであろう空の方を見つめつつ、零が新たに入れてくれた紅茶とお菓子に舌鼓を打って吉報を待つことになった。

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