第475話 プレゼント交換の始まり

「お腹いっぱーい」

「ふぅ……もう食べられない」

「もう入らないわ」

「もう無理デスよ!!」


 パーティメンバー達は椅子にもたれかかってぐったりとしている。それぞれデザートであるクリスマスケーキを食べられるだけ食べたからだ。


「いやぁ……バイキングよりも美味しかったね」

「うんうん、美味しかった」

「そうだね、本当に」


 バンド三人組も満足げの表情を浮かべていた。


「甘いものは心にしみるなぁ……」

「そうだろ、少しは元気が出たか?」

「少しだけな……」


 アキもほんの少しだけど、元気出てきた。保護者達は大分前にケーキの摂取を済ませてすでに歓談している。


「ん?」


 ただ一人を除いては。


「どうかした?」


 当事者をジッと見ていたら、それに気づいたらしく、俺の方に首を向けて無表情でモグモグと口を動かしながら首を傾げるシア。


 アホ毛が音符の形になって飛び跳ねているので、本当にまだまだ食べられるんだろうな。


「いや、よくそんなに食べられるな?」

「モグモグ……美味しいから……モグモグ」

「そ、そうか……」


 俺が顔を引きつらせながら問いかけたら、そのまま食べ続けつつ答えたので、俺はそう答えるしかなかった。


「ふぅ……お腹いっぱい……」


 それから暫くしてシアがようやく満足した。一体何ホール分のケーキがシアの小さな体の中に入っているのか分からない。少なくとも見ている限り、十ホール分くらいは食べていた。


 一体その体のどこにそのケーキが入っていったのか調べてみたい。


 勿論エッチな意味じゃないぞ?


「ねぇねぇ、そろそろプレゼント交換しようよ!!」


 シアが満足したところで、タイミングを見計らっていたのか、七海が提案する。


「確かにもう結構いい時間だものね」


 零は七海の提案に同意するように時計を見る。


「うん。あまり遅くなっちゃうと大変だからね」

「そうね、やっちゃおうよ」


 七海が零の返事に頷き、それを受けて天音も賛同した。


「それじゃあ、やるか」

「うん!!」


 七海がやりたがったらやる以外の選択肢はないので、俺も一緒に賛成して話を進める。


 それぞれのプレゼントを誰のか分からないように裏で一人ずつ上から開くタイプの箱の中に入れて戻ってきて、準備が整った。


「それじゃあ、お兄ちゃん以外はくじ引きでプレゼントを交換するからね!!」


 七海が当然のように言うが、ちょっと理不尽だよなと思わなくもない。まぁどうせCランクダンジョンで拾ってきたものだ。大した手間でもなかったし、選ぶのをそっちのけでダンジョンに潜っていたので、何も言う資格はないか。


 先に皆でくじ引きをしてプレゼントを交換し合う。


 ていうか俺だけもらえないとかどういう拷問なんだ!!


 俺は過去のトラウマを思い出して心の中で泣いた。


「わぁーい。私は天音ちゃんのだね!!」

「ん。私はふーくんまま」

「私は多々良さんね」

「私はアレクシアちゃんのお母さんデスよ!!」


 皆は各々受け取って喜び合っている。


 俺はそれをしくしくと眺めていた。


「ほら、お兄ちゃん、プレゼント!!」

「ん。これあげる」

「しょうがないから私からも上げるわよ」

「私からもプレゼントがあるわ」

「勿論私も用意しているデスよ!!」


 しゅんと落ちこんでいる俺の元にパーティメンバーとノエルがやってきて、綺麗にラッピングされたプレゼントの数々を俺に手渡してくれた。


「皆……うっ」


 俺はプレゼントを貰えないと思ったの思わず涙ぐんだ。


「全くプレゼントくらいで泣かないでよ……」

「いやだって完全にもらえない流れだったろ……」

「私がお兄ちゃんにそんなことするわけないでしょ!!」

「うっ。それはそうだったな」


 うれし泣きをする俺に対して呆れる天音と心外だという顔をする七海。


 たしかに七海が俺を放置するわけがなかった。誕生日もバレンタインデーもクリスマスも毎年必ず暮れてたからな。


 俺は妹を信じきれなかったなんて恥ずかしい。


「悪かった。兄の俺が妹を信じないなんてダメだよな」

「そうだよ!!」


 俺は七海の頭を撫でながら謝ると、頬を膨らませてプンプンという音が聞こえそうな怒り方をする妹。


「ごめんごめん」

「えへへ~」


 頭を下げてさらに妹を撫でていたら俺に甘えて体を寄せてきた。


「ほらほら兄妹でイチャイチャしてないで、さっさと普人君のプレゼントの移りましょ」

「ん」


 その雰囲気を壊すように天音が手を叩いて俺たちを我に返した。


「あぁ悪い悪い。そうだな」

「うん、お兄ちゃんのプレゼント楽しみだね!!ダンジョンアイテムだけど!!」


 俺と七海が離れ、俺は頭を掻き、七海はなぜかどや顔でない胸を張る。


「そうみたいね。一体何がもらえるのか楽しみ」

「そんなに期待しないでくれ。Cランクダンジョンで手に入れたくらいのものだし」


 ワクワクした顔をする天音に俺は苦笑いを浮かべて肩を竦めた。


「なら、それなりに良い物なんじゃない?」

「ん?そうなのか?」

「そうよ、Cランクになれる探索者だって多くはないんだから」

「ふーん。まぁ喜んでもらえるならいいや」


 思ったよりも喜んでもらえそうなので、今度は皆に俺がプレゼントを渡すことにした。

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