第459話 え?こんな幼女いたっけ?
「ここがシアの家か」
「おっきいねぇ」
俺と七海の前には塀があり、邸宅を囲っていて、塀の上から豪邸と呼ぶにふさわしい屋敷が顔を出していた。時音先輩のように元々このあたりに住んでいた一族でもないし、この辺りを拠点にしていたわけでもないため、土地自体が大きいわけではないけど、それは立派な家だ。
―ピンポーンッ
少し呆けた後でインターホンを鳴らす。
『はいなのじゃ』
「あ、俺だけど開けてもらってもいいか?」
数十秒ほど待つと、幼げな女の子の声が聞こえた。その声に心当たりのあった俺は特に名乗ることもなく、鍵を開けてもらおうとする。
『む。電話ではなく、まさか姿が見えるインターホンで詐欺を働くとは大胆不敵な奴じゃのう』
「いや、お前誰か分かってやってるだろ」
しかし、相手がなんとなく若干小ばかにするような声色で詐欺師扱いをしてくるので、インターホンをジト目で睨みつけて文句を言った。
『さぁて知らんな!!我は高貴な血筋ゆえに――』
『ミラちゃん、早く入れてくれる?』
『ア、アンナ殿、すまなんだ……。主様、今開ける故、入ってくるがよい』
それでもなお、鍵を開けようとしない幼女に業を煮やしたアンナさんの声が聞こえたら、その声の主は急におとなしくなって入り口のカギを開けた。
「あ、ああ……」
それはその変わりように困惑するしかなかった。
敷地内に入り、もうすぐ玄関に付くというところで玄関の扉が開き、ひょっこりと小さな女の子が顔を出す。アンナさんに怒られたせいか、罰の悪そうな表情を浮かべていた。
「いらっしゃいなのじゃ、主様」
「久しぶりだな、ミラ」
俺たちを出迎えたのは、ダンジョンがおかしくなり、転移罠が世界各地のダンジョンにつながってしまい、遭難者が続出するという事件が起こった際に、調査と称した世界旅行の途中で仲間にした吸血鬼だ。
一応王らしいんだけど、長い期間血も吸わずにいた結果、今の幼女な見た目になってしまったようだ。契約者がシアであることと、その見た目から今はシアの家の子供となっている。
アンナさんと真さんが裏から色々手を回すことできちんと国籍も戸籍もある。
一体何をどうやったのやら……。
とはいえ、その程度のことなら零も造作もなくやってのけそうだけどな。
「うむ。さっきは調子に乗って悪かったのじゃ」
「気にするな。別に気にしてない」
「そうだよミラちゃん。そんなことくらいでお兄ちゃんが怒ったりしないから大丈夫」
しょんぼりするミラを俺と七海が慰める。
「そうかの。それは良かったのじゃ」
俺たちの言葉に安堵して顔だけひょっこり出すのを止めて、全身を俺たちの前にさらした。
ただ、何故かメイド服を着ていた。
「幼女メイドだと……」
「さらに属性を持ってきたね」
「何のことじゃ?」
俺と七海はミラの格好を見て恐れおののいたけど、ミラは何のことは分からずに首を傾げる。
ただでさえ、のじゃろりポンコツ吸血鬼なのに、さらにメイド属性まで盛り込んでくるとは恐れ入る。
「なんでそんな恰好をしているんだ?」
「ん?可愛いじゃろ?」
俺の質問に全く答えになっていない答えを貸してくるミラ。
そういうことを聞きたいんじゃないんだよ。
「いや、可愛いんだが、それだけか?」
「なに。ただ居候するのも悪いと思っての。それならば我が侍女の真似事でもしようと思ったまでじゃ」
「なるほどな。なかなか殊勝な心掛けじゃないか。本音は?」
あのポンコツ吸血鬼がそんな真っ当な考えをするわけがない。
「うむ。これで男どもを悩殺するのじゃ」
「本音が漏れてるぞ」
「しまった!!」
鎌をかけてみたら案の定、おかしなことを考えていた。ただ、それを自分で言ってしまうところがミラのポンコツたるゆえんなわけだが。
そして、日本にお前みたいな幼女メイドに悩殺される男なんていないぞ、と言えないところが悲しいところだ。
俺は全く興味はないけど、世の中には変態紳士沢山いる。多くの紳士はイエスロリータノータッチの精神を持っているかもしれないけど、このポンコツに悩殺されて手を出そうとする可能性はあるんだよな。
きちんとシアに手綱を握っておくように後で注意しておかないといけないな。
「全く相変わらずだな」
「まぁバレては仕方があるまい。一日でも早く元の体に戻って男どもを虜にしてやるのじゃ」
俺が呆れて肩を竦めると、ミラは開き直ってしまった。
「それにしては全く体は変わっていないようだけどな」
「な、なにを~!?これでもほんの少しずつ育っておるのじゃ」
そんなミラを上から下まで見た後で鼻で笑ったら、プンプンという擬音が聞こえるように怒りを露わにしたけど、幼女でしかないので微笑ましさしかない。
「はいはい。それよりも早く案内してくれないか?」
「むきーっ!!はぁ……あんまり待たせるとアンナ殿にまた怒られてしまう故、今日の所はこれくらいで勘弁してやろう」
「なんでもいいから早く頼む」
「分かったのじゃ」
適当に相手をしたら、さらに顔を真っ赤にした。しかし、アンナさんからの圧力を受けたことを思い出したのか、捨て台詞を吐いた後で、俺たちを家の中に招き入れるのであった。
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