第432話 前日
一人危機感を持った俺はその日から猛練習を始めることに決めた。たったひと時の事ではあるけど、本気で取り組むために形から入ることにする。
ふふふっ。これでもラッキーの積み重なりでとんでもない金持ちになってしまったんだ。
金ならある。
これは人生で言ってみたい言葉の一つだな。
「初心者ならこの辺りがいいんじゃない?」
「分かった」
天音に付き合ってもらって楽器一式そろえ、
「兄貴、良い場所知ってますぜ!!」
「そうそう。あそこなら練習にうってつけですよ」
ジャックとジョージに練習場所に適した場所を教えてもらい、
「全く仕方ないわね。練習に付き合ってあげるわよ」
「ん」
「なんか楽しそうだから私もやるぅ~」
学校で山城さんと田中さんとの合同練習の後に、天音とシアに付き合ってもらい、なぜか七海もリコーダーを持って参戦してきた。
「私にも噛ませてもらうわ!!」
そう言ってさらに零まで参加してきた。しかもなんていうかゴシックロリータ風のアイドルファッションみたいな服装と、ちょっと地雷っぽさとホラーっぽさを含むメイクをバッチリ決めている。
明らかに一番気合が入っていた。ただし、持っている楽器はタンバリンだった。そのアンバランスさが絶妙だ。
恥ずかしくないのだろうか?
それにしてもいったいどこから嗅ぎ付けてきたのか。
「そんなの私たちが言ったに決まってるじゃない」
「ん」
俺の表情から心を読んだのか、天音とシアが答えを言った。
まぁそれもそうか。
俺はみんなに協力してもらいながら、ひたすらに練習しまくった。
「ふぅ……」
「お兄ちゃん、ちゃんと最後まで弾けるようになったね!!」
「ああ、なんとかな」
「まだまだ拙いけど、楽器を持ってたった四日ということを考えれば、信じられないほどの上達ね」
そのおかげで探索者になっているせいか覚えがよかったのか、みるみる上達して、なんとか四日ほどである程度形になった。
勿論ちゃんとやっている人たちに比べれば下手くそもいいところだし、プロとなんて比ぶべくもない。
なんだか今までこんな真剣に取り組んだことって、ダンジョン探索以外にはなかったように思う。
それに、ダンジョン探索は命がけだし、最近はどちらかというと仕事という側面が強くなってきた。それに比べて音楽は仕事とは全く関係がない。趣味としては悪くないかもしれない。
皆もなんか楽しそうだしな。文化祭準備というブーストがかかっているのかもしれないけど。
「後はみんなで合わせて練習すれば大丈夫でしょう」
「ふぅ……間に合ってよかった……」
天音にも太鼓判を貰ったので俺はホッと一息吐いた。
それからは山城さんと田中さんとの練習をやりながら、完成度を高めるために一人でも練習を続けるのであった。
「わぁ~、今の演奏めっちゃよかったよね!!」
「うんうん、なんか一体感がエモかった!!」
あっという間に数日が経ち、もう文化祭前日。最後の演奏合わせは今までで一番の出来で、山城さんと田中さんが興奮気味に言い合っている。
彼女たちとはもう同じバンド仲間って感じで気安いやり取りができるようになっていた。
「まさかたった一週間程度なのに、ここまで弾けるようになるなんて佐藤君は凄いね」
「いやぁ、二人は勿論、天音やシア、それにウチの妹や、パーティメンバーにも手伝ってもらったおかげだよ。皆ありがとう」
田中さんが屈託のない笑顔で俺を褒めてくれたけど、それは俺だけの力ではなく、皆が協力してくれたからだ。
俺は彼女の笑顔に返すように微笑んだ。
『キューンッ』
「ガチイケメンのありがとう破壊力高すぎない?」
「わかるぅ!!」
二人は手を取り合ってキャーっと顔を赤らめてはしゃいでいる。
いまだに実感はないけど、スパエモの本気施術によって俺の顔は他人にはイケメンに見えるようになったらしいんだよな。
「あげないよ?」
シアが二人に牽制するように首を傾げて威圧する。
「分かってるって!!アレクシアちゃんの旦那さんだもんね!!」
「イケメンは見てるだけで尊いからいいんだよ!!」
二人はシアの威圧にも負けることなく、笑顔で返事を返す。
そもそも俺はシアの旦那ではないけど、正直どこまで外堀が埋まってしまっているかはわからない。
落ち物パズルゲームのすでに積みかけてる状態になっている可能性さえあるけど、気にしたら負けなのだ。
「あ、もういい時間ね」
「そうだね」
気付けば音楽室の外はすっかりオレンジ色に染まっていた。
「それじゃあ、皆が協力してくれた感謝と、明日の文化祭へ向けた決起集会として前夜祭としてちょっと出かけないか?勿論俺のおごりだ」
俺たちは明日に向けて前夜祭を個人的に行うことにした。
学校ではまた別にやっているようだけど、堅苦しいというか、決まったことをやるだけなので、なんだか味気ない気がするからだ。
「ん。行く」
「いいわね!!」
「勿論行きます!!」
「行くに決まってるよぉ!!」
あっさりと四人とも俺の提案に乗ってくれたので、俺たちは街へとくり出した。
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