第405話 気晴らしと異常
殲滅も突入にも失敗した俺達は、家に帰り、ご飯を食べてもう寝る準備万端という状態で顔を突き合わせていた。
「うー」
「うーん」
「うーむ」
「んー」
「んあー」
「あー」
全員が悩まし気に唸りながら考え込んでいた。
「駄目ね。何も思いつかないわ」
「私も」
「あたしも」
「ん」
「私もデスよ」
零がお手上げと言った様子で首を振れば、他の皆も同じような反応を見せる。
「延々と湧き出るモンスターが空にいるってどうしようもないわよね。まともに空を飛べる人が少なすぎるし、その発生源には近づけもしないし」
「そうねぇ。ラックちゃん達が空を飛べればどれだけモンスターが現れても倒せると思うけど、それは無理だろうし」
天音が「反則よね」と言いながらうんざりした表情で愚痴り、零が隣に座るラックの頭を撫でながら現実逃避気味に願望を述べる。
「クゥーン……」
「あ、ラ、ラックちゃんが悪いわけじゃないのよ?」
零の言葉に悲し気に鳴くラック。零は「しまった」といった表情になり、苦笑いを浮かべて言い訳した。
零の言いたいことはよく分かるし、彼女がラックを悲しませたいと思っている訳でもないことは分かる。
しかし、ラックは飛べなくても重要な役割を果たしていた。
「そうだぞ。ラックが地上を守ってくれていると思えばこそ、俺達も安心して空に戦いに行けるわけだしな」
「ウォンッ」
ラックが地上に無数に散らばっていることで、いざ空のモンスターが地上に降りてきて人々に襲い掛かってきても撃退できるだろうということだ。
ラックにそのことを伝えてやると、ラックは気分を持ち直した。
「あんたたち、今日はそろそろ休んだら?」
「ん?あ、母さん」
ウンウンと頭を抱えて話す俺達に、見るに見かねた母さんが口を挟んでくる。
「何も思いつかない時は思い切って休むとか気晴らしでもした方が良いわよ?何もあんたたちだけ背負わなければいけない問題でもない訳だし。少しくらい休んだってバチは当たらないわ」
「確かにな。根を詰め過ぎたか」
俺達はまた思いつめて視野が物凄く狭くなっているのかもしれない。またスパエモに行くとか、他に何かあれば気分転換するのも悪くない。
「そうね、こうやって頭を突き合わせていても何も思い浮かばないのならいっその事どこかに出かけるのも悪くないわ」
「秋葉原行きたいデスよ~」
「あ、私は映画見たい!!『ドゥラゲンボール超 スーパーヒーロー』が上映しているんだよ!!」
零も気分転換の必要性に気付き、ノエルと七海がいきたいところを述べる。
七海は映画を見に行きたいのか……。
そういえば昔はよく家族で見に行ったっけ。
「映画か……。そういえば最近全く見に行ってないな」
「そうそう。昔はよく家族で見に行っていたけど、近頃は色々あって全く見に行けてないから」
過去を思い出しながら呟けば、七海が俺の言葉に同意しながら少し寂しそうに言った。
あ、妹にこんな顔をさせてしまうなんて兄失格じゃないか!!
「そうだな。明日は映画を見に行こう」
『さんせーい!!』
俺の提案に皆が手を挙げて賛成してくれた。
「とほほ……いいんデスよ。どうせ、ノエルはいらない子デスよ……ぐすっ」
しかし、ただ一人手を挙げずにしょぼくれている人物が居る。ノエルだった。
「ああ~、悪い。今回は映画に行くってことで。それで秋葉原はまた今度に、な?」
「ううう。分かったデスよ。映画行くデスよ」
俺は申し訳なさそうにしながらノエルから目を晒して秋葉原に行く約束をすると、ノエルは不承不承と言った様子で映画に行くことに同意した。
と言うことで翌日。
俺達は映画館にやってきた。
「楽しみ~!!」
七海が見たかった映画が見れると合ってはしゃいでいる。
「転んだり、人にぶつからないように、ちゃんと見ろよ~」
「はーい」
テンションを上げている七海に注意をして、俺達はチケットを買い、開場されたら、そのシアターホールに移動し、映画を堪能した。
「あ~、面白かった!!」
「そうね、中々良くできていたと思うわ」
「えぇ、私もああいうジャンルは見たことがなかったけど面白かったわ」
「ん」
「最高デスよ~!!」
映画が終わった俺達は全員満足して映画館を後にする。
「ちょっと何か食べないか?」
「わーい!!外食」
もうすぐ昼になるという時間になったので、ファミレスに入る。
「何名様ですか?」
「六人です」
「ではご案内します」
店員が出て着て、普通に案内されたんだけど、店内に違和感があった。
「なんか、お客さん少ないね?」
そうだ。ファミレスなのに来ている客が異様に少ないんだ。
そして俺達は席に座り、メニューを見た瞬間にその原因を理解する。
「な、なにこれ!?」
「たっか!!」
「ネットでは見ていたけど、ここまでとはね」
そう料理の値段が異常なことになっていたのだ。
つまり俺達が懸念していたことがすでに起こりつつあるのだ。
「これは一刻の猶予もなさそうだな」
「そうね。でも今は料理を食べましょ。何か食べていれば思いつくこともあるだろうし」
「そうか……そうだな……」
あまり悠長にもしてられないなと思って感じた俺だけど、零にとりなされて今はこのクッソ高い料理を堪能することにした。
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