第404話 正体不明の情報提供者(第三者視点)
「くそっ……!!スタンピードが落ち着いたと思ったら今度は空か……!!次から次へと問題ばかり起こりおって!!忌々しい!!」
首相官邸の一室で中津川智則は、スタンピードの対応がやっと終わったかと思ったら、終息してたった数カ月で再びモンスター関連の異例の事態が起こるのは本当に厳しい状況だった。
「ダンジョンもモンスターも、様々な研究を続けていますが、その成果は芳しくなく、全く何も分かっていない存在ですからね」
いつもと同じように部下が首相の愚痴に答える。
最近は大体このような調子なので、いいか悪いかは置いておいて、部下も大分中津川の様子に慣れてきてしまい、適当に流すのがいつもの光景になりつつあった。
「はぁ……それはそうだが、モンスターそのものよりも諸国との物流が途絶えたのが痛く過ぎる……」
「そうですねぇ。一昔前と比べて人口が少ないため、国内の食料の自給率は格段に高いとはいえ、やはり海外の食料品が入ってこないのは大打撃でしょうね」
中津川の言う通り、モンスターそのものもさることながら、海外との唯一の物流手段である空路が封鎖されてしまった。
そのせいで空輸されていた物資が一切届かない。それは輸出入が死んだと同義。今後は国内生産のみで生活していかなければならない。
容量が大きなマジックバックを使えば空輸でも多量の物資を運ぶことが出来るため、安価な商品の輸入は空輸に頼っていたのだ。もちろん国内の物流もマジックバッグによってバッグがなかった時と比べれば格段に安いが、海外の食品の方がさらに安価だった。
「そうなのだ。食料品をはじめとして、海外から輸入している安価な製品は多い。それらが入って来なくなってしまうと、かなりマズい状況になる可能性がある。それに輸出が出来なくなれば、輸出入の貿易事業は壊滅だ。そうなれば経済が死んでしまう。そうなる前にどうにかしなければなるまい」
他の製品もさることながら、特に安価な食料の不足が予想された。
結果的に国内の食料の需要が高まり、供給が追い付かなくなって高騰し、このままではとんでもない物価の上昇が起こる可能性があった。
そうなってしまえば、低所得層は生活もままならなくなってしまう。
それどころか輸出入に頼ったビジネスはほぼ壊滅したと言っても良い状況だ。そうなれば失業者で溢れ、かなりヤバい事態になることは間違いなかった。
「このまま手をこまねいていては、取り返しのつかないことになってしまう。どうにかして積極的に動き、活路を切り開かねばなるまい」
「ダンジョンの転移罠が今も動いていてくれれば、やりようもあったんですがね」
「そうだな。しかし、正常に戻ってしまった今となってはどうしようもない」
失踪事件を引き起こした転移罠が生きていれば、その経路を完全に把握すれば、輸出入に利用することも可能なはずだったが、九月に入ってからは完全にその動作が正常化されてしまい、転移で海外へ跳ぶことは出来なくなってしまった。
それでは利用することはできない。
「こうなれば、長期的な政策として第一次産業への優遇と、並行して人員を募って決死隊を組織し、あの雲に突入して今の状況を打開するなんらかの情報を手に入れる他あるまい」
「そうですね。方々に声をかければ、数十名くらいは手を挙げてくれるでしょう」
「彼らには本当に申し訳ないが、日本を生かすために、犠牲になってもらうしかないだろう。まずは心当りに声掛けを始めてくれるか?」
日本のためなら喜んで自分の命を差し出そう。そう考えている人間にはある程度心当りがあった。初動が遅れれば遅れるほど、取り返しのつかないことになる。
「分かりました」
すぐに中津川の指示に従って部下が部屋を出ていく。
―ピロリロリンッ
しかし、その時、部下のスマホの音がなった。
「ん?音は消していたはずですが……」
いつもサイレントモードにしていた部下だが、突然なった音に驚き、訝しむ。
「ちょっと見てみろ」
「は、はい……」
不審に感じたが、中津川の指示でスマホを開く部下。
「こ、これは!?」
「どうした?」
部下はスマホを開いた瞬間に驚愕で言葉を失い、その様子に中津川が驚いた理由を尋ねる。
「これを見てください!!」
部下は我に返り、通知に表示されていたメールをタップして詳細を表示させる。
「これは……雲へ突入しようとした人間の報告書だと!?」
「は、はい」
メールには雲に突入しようとした人間が書いたと思われる報告がビッシリと書かれていた。それだけでなく、モンスターを減らそうと試みたことも記載されている。
本物だとすれば有用な情報だ。
「偽物だという可能性は?」
「確かにその可能性はありますが、ここまで詳細に書かれていて、音声などはありませんが、映像まで添付されているとなると、その可能性は低いかと」
メールには文章だけでなく、ご丁寧に戦闘した際の記録まで添付されていた。それだけで俄然本物の可能性が高くなった。
「はぁ……この報告書と動画を見る限り、決死隊を送るのは無駄死にになるところだったな」
一通り内容に目を通した中津川は、ひどく憂鬱そうな声色で良かったなどと矛盾したことを呟く。
「はい、出発する前で本当によかったです。ただし……」
「ああ、これで八方塞がりだ……」
そう、決死隊を出しても無駄だということは分かったが、それはつまり打つ手がないということだ。
「兎に角、食料と経済対策をどうにかするぞ!!ついてこい!!」
「はっ」
しかし、何もしないという選択肢はない。空のモンスターに関して打てる策が無くなった二人は、どうにかして日本が滅ばないために奔走しなければならなかった。
「それはそうと、アビスレディってネーミングセンスはないな……」
「そうですね」
正体不明の情報提供者の送り名がアビスレディとなって送られてきていた。二人はその黒歴史になりそうな名前を嘲笑して首を振るのであった。
■■■
「くしゅんっ」
「どうした?風邪か?」
「いえ、気を付けているから違うと思うけど、誰かが噂でもしているのかしら?」
一方、中津川とその部下が嘲笑しながら奔走を始めたころ、世界のどこかにいる厨二的ネーミングセンスの持ち主がくしゃみをしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます