第321話 頼れるお姉さん
「こんな安らかな寝顔でスヤスヤと寝てくれちゃって!!後でとっちめてやるんだから!!」
七海は流石に起こしたりはしないけど、ノエルの顔を睨み付けて叫ぶ。
そんなに俺が口移しからのディープなキッスをしたことに怒っても仕方ないと思う。どう考えても不可抗力だし。
「ともかくこれで依頼完了ってことでいいのか?」
喚き叫ぶ七海を尻目に俺は零に確認する。
「勿論送り届けてこその依頼完了だけど、そう考えてもいいんじゃないかしら」
「そっか。よかった。早速送り届けるか」
零のお墨付きを貰った俺はようやく人心地ついた気分だ。後はさっさとノエルをハンターズギルドに送り届けてこの依頼を完了させたい。
俺達はノエルを連れて依頼を受けた独国に連れて行くことにする。
レトキアに直接連れて行くという選択肢もあるんだろうけど、行ったことがないし、ハンターズギルドに伝手がないということも考えると、面倒な事態に巻き込まれてしまうかもしれない。
それなら零の顔なじみがいる独国の方が面倒がないはずだ。
「そうね。早く報告することに越したことないわ。あまりの解決速度の速さに色々疑問を持たれるかもしれないけど、私の方で誤魔化しおくわ。だからアグネスへの報告は私一人で行ってくるから、ノエルを職員に預けたら、その間何処かで休んでて」
「いや、それは流石に悪いだろ?」
そこで零が一人で報告行って上手く誤魔化してくれるということだけど、一人で報告に行かせるのも申し訳ない。
「いいえ、あなた達は良くも悪くも素直だから隠し事は難しいでしょ。一緒に行くとあなた達の顔色で色々と勘繰られるかもしれないわ。ここはお姉さんに任せておきなさいな」
そう思っていた俺だけど、どうやら俺達が嘘を付けなくて目を付けられる事態を避けるために、一人で行くことを考えてくれたらしい。
俺達はそんなことも考えずにやりたいことをやってノエルを救出しただけなので、何も考えてなくて本当に零には頭が上がらないな。
「分かった。俺達の事をそこまで考えてくれてありがとう零」
俺はいつも俺達の事を考えてくれる零に頭を下げた。
「絶対許さないんだからぁああああああああ!!」
荒ぶっている七海以外も俺と同様に頭を下げた。
「い、いえ、良いのよ。それは私がこのパーティの保護者として当然のことだと思うし、慣れている私の役目だと思ってるから」
零はやはりあまり感謝されなれていないのか、顔を赤くして俺達から目を逸らして頬をかきながら照れる。
そういう所は凛とした佇まいからは想像できない程に幼くて、ギャップでとても可愛らしかった。
「七海、いつまでも怒ってないでさっさとノエルをハンターズギルドに届けるぞ」
「え?あ、はぁーい」
怒りで伝説の戦士にでもなりそうな勢いの七海を揺さぶって正気に戻すと、起こさないようにノエルを横抱きにして抱え上げ、俺達は独国の人気のない場所に転移して、ハンターズギルドに向かった。
ノエルは外から分からないように毛布の様なもので包んでいるが、明らかに人である物体を抱えている俺に注目が集まり、少しドギマギしてしまう。
挙動不審だからと国家権力に目を付けられない内に、俺達はそそくさとハンターズギルドの中に逃げ込んだ。
「アグネスに取り次いでもらえる?」
「あ、レイ様。承知しました」
受付嬢は俺達の対応をしてくれた人物で、俺達のことを覚えてくれていたようで、すぐにギルドマスターであるアグネスに取り次いでもらえた。
前回同様に応接室に案内された俺達。
「それじゃあ、ノエルちゃんはそこに寝かせてちょうだい。彼女の体調も安定しているし、後は私に任せて休んでなさいね」
「ああ。零には迷惑をかけるけど、後は頼んだ」
「任せておきなさい」
俺はノエルをソファーに寝かせ、霊がその豊満な胸をポンと叩いて引き受けてくれたので、俺たちはアグネスが来る前に部屋から出てハンターズギルドの入り口を目指して歩く。
「あれ?お帰りですか?」
「はい、後は零が引き受けてくれたので、俺達は一旦休ませてもらいます」
「そうですか。失礼しました」
受付嬢が奥から俺達だけが出てきたことに不思議そうに声をかけてきたので、事実だけを述べて、俺たちはハンターズギルドを後にした。
「ふぅ……ちょっとだけひやひやしたな」
「そうね。あそこでまさか声を掛けられるとは思わなかったわ」
俺のつぶやきに天音が同意する。
俺達だけ帰るのはやっぱりちょっと不自然だからな。
「まぁ、もう出ることは出来たからどこかでテントでも張って休もう。ホテルとかだと足がつきそうだし」
「そうね」
とりあえず問題なく外に出ることが出来た俺達は予定通りどこかでキャンプでもすることにする。
「むぅ~、スイーツ食べたかったんじゃがのう」
「ミラ、悪いな。そのうち連れてくから我慢してくれ。皆疲れているだろうしな」
「分かっておる。我慢するのじゃ」
ミラが少し不満気に呟くが、夜通し対応していたことも分かっているので不承不承と言った様子で我慢してくれた。
「そういえば、ミラって吸血鬼なのに日の光は大丈夫なのか?」
「真祖であり、王の我を見くびるではない。そのくらい我ほど者になると何の問題もないのじゃ」
ふと疑問に思った俺がミラに尋ねると、彼女は七海以上に寸胴な胸を張ってドヤ顔で答える。
「そうなんだ。すげぇな」
そうなると思ったよりも弱点は少ないのかもしれないな。ラックは苦手みたいだけど。
俺は素直に感心した。
「ふふん、そうであろうそうであろう?もっと褒めてくれていいのじゃよ?」
「それは後でな。とりあえずラックにお任せで良さげな場所に転移するぞ」
『了解!!』
ミラが調子に乗ってどこかの偉大なる航路にいそうな女帝くらいに体をそり始めたので、俺はそれを無視して話を進めると、ミラ以外が返事をしてくれる。
「無視するで……」
その返事に合わせて俺達は転移した。ミラの抗議は途中で途切れてしまった。
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