第310話 化物扱い

「吸血鬼って鏡に映るんだね」

「私も知らなかったわね」

「そもそもモンスターじゃない吸血鬼が本当にいるとは思わなかったしね」


 衝撃の事実の告白に各々が感想を語り合う。


 確かに鏡に映らないことも衝撃的だったけど、まさか本当にモンスター以外の吸血鬼がいるとは思わなかった。


 それも目の前で涙ぐむこんなに可愛らしい幼女だなんてな。世の中分からないことだらけだ。


「ヨシヨシ」

「ぐすんっ」

 

 シアが早速お姉ちゃん風を吹かせるように慰めるように頭をポンポンと撫でてやっている。


「そもそもどうして縮んだんだ?」

「お、おそらく長い時間血を吸っていないことと栄養不足による後遺症じゃろうな……ぐすっ。起きてれば飢餓状態になって強制的に血を吸うことになったじゃろうが、目覚めないように封印しておったせいで血を吸うことが出来ず、体を消費して補ったのであろう……ぐすっ」

「唯の自業自得じゃないか……」


 俺が縮んだ理由を訪ねたら、良い男と契約するために自身を封印したけど、あまりに次の主人がくるのが遅すぎて、栄養が足りなくなったせいのようだ。


 完全に本人のせいだった。


 これまでの言動を聞く限りこいつは……。

 いやいやまだ分からないぞ。


 俺はあふれ出る思考にブンブンと首を振った。


「我の予定ではいい男と契約して虜にするはずだったのじゃあ……ぐすんっ」


 俺の言葉にさらに落ち込んで再び泣きじゃくるミラーディア。


 その姿は幼い頃の七海を見ているみたいでいたたまれない。


「はぁ……ちょっと落ち着け。血が足りなくなって縮んだんだろ?」


 俺は仕方がないので助け船を出してやることにした。


「ぐすっ……う、うむ。そうじゃ」


 俺の話にミラーディアは涙を溜めたまま頷く。


「それなら血を補給すれば、お前は成長できるということじゃないか?」

「~~!?」


 ミラーディアの反応を見て続けた俺の言葉を聞いて、そういう考えはなかったとでも言いたげな表情になって彼女は驚いた。


 いやいや、これって驚くほどのことじゃないからな!!


「どうだ?違うのか?」

「ふ、ふん、当然我も分かっておったのじゃぞ!!」


 俺が再び問いかけると、ミラーディアはバレバレな態度で腕を組んでそっぽを向いて返事をする。


「ちなみにどのくらいの血を吸えば満足するんだ?血は人間のじゃないとダメなのか?普通の食事は必要ないのか?」

「そうじゃの。血に関しては人の血以外ではダメじゃの。満足する量となると、一日にこのくらいの小瓶一つ分程度かの。我らも血を吸う以外は人間とそう変わらん。食事を摂った上で、血の摂取も必要じゃというくらいなのじゃ」

「なるほどな」


 自分が元の状態に成長できる可能性を得たことで泣き止み、俺の質問に答えるミラーディア。


 彼女が提示した小瓶は一本五ミリリットル程度の物であった。そのくらいなら毎日取られても大丈夫そうな気がする。


「ん。そのくらい吸ってもいい」


 俺が言おうと思っていたことをシアが言いだす。


「私も分けてあげる」

「仕方ないから私も力を貸すわよ」

「アレクシアちゃんが保護するって決めたのなら私も微力ながら協力するわ」


 その言葉を皮切りに、他の皆も名乗りを上げた。


 この流れに乗らないのは男としてダメだと思う。


「シアの妹になるんだ。そのくらい俺も力を貸そう」

「お兄ちゃんはダメ」

「え!?なんでだよ!?」


 俺も当然のように流れに乗ったら七海に真顔で拒否された。


 世界で一番愛している妹に拒否されるとか辛い。


「だってお兄ちゃんの血を飲んだら、ミラちゃん爆発しそうだもん!!」

「七海は一体俺をなんだと思ってるんだ!?」


 余りに意味不明な理由だったので思わず七海を問い詰める。


「うーん、化け物?」

「俺、泣いてもいい?」


 妹に化物呼ばわりされて俺は本当に泣きそうになった。


 俺が何をしたっていうんだ……。


「じょ、冗談だって!!兎に角、女の子には女の子の血がいいよ、多分」

「はぁ……分かった分かった。血の事は皆に任せるよ。くれぐれも無理しないようにな」

「分かってるって」


 俺を慰める七海に、俺が血を提供するのは止めて皆に任せることにした。


「七海達が血を分けてくれるってよ。良かったな?」

「お主の血が良かったのじゃがなぁ……」


 俺が聞こえていただろうけど、皆の決定を伝えると、指をくわえてもの欲しそうに俺を見つめる。


 そんなこと言われてもなぁ。


 俺が皆をみつめると、全員が即座に動いた。


「駄目だよ!!飲んだらヤバいことになるに違いないんだからね!!」

「ん。ふーくんの血はダメ。死ぬ」

「えー、あー、うん。普人君は止めた方が良いと思うわよ」

「そうね、佐藤君のは絶対に止めておきなさい」

「う、うむ。わかったのじゃ……」


 全員で取り囲むように説得すると、ミラーディアもその圧力に負けて頷く。


「やっぱり泣いてもいいかなぁ?」

 

 俺のガラスのように繊細な心は皆に化物扱いされて粉々に砕け散ってしまった。


 俺は悲しみに暮れ、涙が溢れないように静かに天井を見上げた。そこに青い空はなく、薄暗い天井が見えるだけだった。

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