第296話 壊滅(第三者視点)

「これより、我らリザードリアンは、地球侵略に向けて出発する!!乗艦せよ!!」

『はっ!!』


 東京ドームのような広さのドックに数千人のリザードマン型の人型生物であるリザードリアンが、白を基調とした制服を身に着け、長方形を描くように綺麗に整列していた。


 彼らの前に立つ一人のリザードリアンの号令によってSFに出てくるような複数の宇宙戦艦に乗り込んでいく。乗り込み完了後、数十にも及ぶ宇宙戦戦艦の艦隊が次々とドックから飛び立った。


「総司令官。船隊の構築が完了しました」

「うむ。ワープエンジンを起動し、予定通りワープ航行に移れ!!」

「はっ!!」


 艦隊の最後方を進む旗艦のブリッジ。


 部下の報告を受けて総司令官が次の指示を出す。ワープすれば数光年単位の距離をショートカットすることが出来る。彼らが地球に数日で到着できるのはこの技術があるためだ。


 部下は船隊全体に命令を通信で送り、合図とともにワープ航行に移る。


 先頭の戦艦が急加速したと思えば、一瞬の煌きと共にその姿を消した。後に続く船も次々と同じように宇宙の真っ黒な海の中に消えていった。


 何度かワープエンジンの冷却を行いながら航行すること数日。


 彼らは遂に地球がある宙域の少し前に辿り着いた。


「これより通常航行に移る。注意を怠るな!!」

「はっ」


 ワープでギリギリまで近づくのはあまりに危険すぎるため、ある程度の距離からは通常航行で様子を見ながら進む。


 リザードリアンは前回の手痛い反撃を教訓にして、今回の侵略のために最高の船と最高の精鋭部隊を揃えた。


 圧倒的な防御性能を誇るシールド艦隊を先頭にしていつ高出力のエネルギー砲を打たれても問題ないように防御力を上げ、攻撃艦隊には地上を簡単に制圧出来るような兵器を搭載していた。


 どこをとっても隙はない。


 誰もが思えるほどに完璧な布陣で今回の作戦は実行に移された。


 しかし、そう思えたのも今この瞬間までだった。


「緊急!!緊急!!超光速で膨大なエネルギーがこちらに迫ってきます!!」

「なんだと!!すぐに回避せよ!!他の艦にもすぐに伝令しろ」

「はっ」

 

 旗艦のブリッジでは、突然けたたましい警告音と共に部下の一人から司令官に報告が入り、その迫ってくるエネルギーが空中に浮かぶ半透明のモニターに映し出された。


 司令官の指示に従い、艦隊は回避行動に移った。


「し、司令官!!エネルギー波が速すぎて回避不能です!!」

「バカな……」


 しかし、モニターに映る光はあっという間に眼前に近づいてきて、もはや回避することは不可能であった。


 司令官は言葉を失い、呆然となる。


「はっ!?もはや逃げることは叶わぬ!!すぐに本星に連絡せよ!!」

「は……はっ!!」


 一瞬固まってしまった司令官だったが、すぐに我に返った。


 生きて帰ることは叶わないが、せめて情報を送るように指示を出す。その数秒後、艦隊は光の奔流に飲み込まれ跡形もなくなった。


「ありえん!!」


 本星の一室で老齢のリザードリアンが、近未来的な机に手をバンと叩きつけて立ち上がる。


「全滅!?全滅だと!?」


 地球侵略をするための船隊の旗艦から送られてきた最後のデータであった。そこに記載されていたのは艦隊は全滅することと、その原因が地球がある方向から向かってきた膨大なエネルギー波であったという内容だ。


 完璧なはずの準備は一切何も功を奏すことはなく、一瞬で壊滅するという事実が記載されていた。


「あの星はそれほどに脅威だというのか……」


 事前調査では一切の脅威が見つからなかったという地球。それにも関わらず、自分の国の侵略部隊も、侵略艦隊も悉く敗北。


 一体どうやって自分たちの侵略計画を知ったのかもわからない。今回も何故か未然に塞がれてしまった。


 老齢のリザードリアンは決意する。


「私たちは手を出してはいけない物に手を出したのかもしれないな……。こうなればメンツなどと言ってはおれん。すぐに止めさせるしかあるまい」


 老齢のリザードリアンは独り言ちた後、地球侵略を取りやめるように進言するため、星の中枢を目指すのであった。



 一方その頃。

 

 艦隊をあっさりと消し飛ばした膨大なエネルギー波は、一筋の直線を描いて、真っ暗で無限の輝きが漂う空間を勢いを落とすことなく突き進んでいく。


 しかし、その光の進行を阻むように巨大な岩が現れた。その岩は惑星にも匹敵する程。第三者が見ていれば光と岩がぶつかって、爆発を起こすと考えるだろう。


―パァンッ


 しかし、そんな爆発など起こることはなく、光が岩とぶつかった瞬間に、岩の方が跡形もなく消え去り、光は何事もなくそのまま突き進んでいく。


『キシャアアアアアアアアアアッ』


 暫く突き進んでいると、次に現れたのは巨大な怪物。真っ黒な体躯とクトゥルフ神話に出てくるような異形な姿形。威嚇するように声を出しているようだが、この空間で声が響くことはない。


 怪物は突然目の前に現れた膨大な光から身の危険を感じ取り、回避行動をとった。


―ジュッ


 しかし、その光はあまりに早く、あまりに巨大な光の筋であった。逃げることは叶わず、あっさりと光の奔流に飲み込まれて前回の岩と同様に跡形もなく姿を消すことなった。


―パァンッ

―ジュッ

―パァンッ

―ジュッ


 怪物を消し去ってからも光の前に障害物が現れる度にはじけ飛んで宇宙の暗闇の中に溶けていく。


 光はどこまでも突き進む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る