第273話 呑気過ぎるターゲット
ディスティニーランドで遊びまくった俺達は、ラスベガスのカジノに行って爆勝ちして出禁にされ、そのお詫びに中々いいホテルに泊まって何事もなく朝を迎えた。
「うーん!!」
「あら、起きたのね」
非常にスッキリとしたいつも通りの寝起きに、状態を起こしてググっと伸びをしていたら、零に声を掛けられた。
俺が目を覚ますのはかなり早い時間帯なのに起きているなんて、流石俺達の中で唯一の大人だ。他の面々はスヤスヤと寝息を立てて熟睡している。
「あんまり女の子の寝顔をじろじろ見るものじゃないわよ?」
「すいませんでした」
零が一応といった様子で俺に釘を刺すと俺は深々と頭を下げた。
確かに寝起きのだらしのない顔を見られるのはとても恥ずかしいだろうな。
「ふふふっ。気を付けてね」
俺のリアクションに口元を押さえて笑う零。窓から射す光によって零が照らされて非常に絵になるシーンだった。
「それにしても朝早いな。いつもこのくらいの時間に起きてるのか?」
「早いと言えば普人君もそうだと思うけど。いつもはこんなに早くないわ。ただ、なんだか胸騒ぎがして目を覚ましたのよ。夜は少し騒がしかったし」
少し零に見とれてしまったけど、気づかれないように気を取り直して尋ねた。
確かに昨日は寝る前になんだか遠くの方から爆発音が聞こえていたけど、ラックが気にすることはないと言うので、特に気にすることもなく熟睡してしまった。
零は隠密系と探知系に優れる能力者だから外での音が気になったり、何か直感的に感じるところがあるのかもしれない。
昨日は裏の組織同士の抗争か何かがあったのかもしれないな。今は静かそうなので治まっているとは思うけど、街中を歩く際は気を付ける必要がある。
街中、ということを呟いた時、ふと思い出したことがあった。
「そういえば、ラスベガスでお土産とか買ってないから、出発はそれからでも大丈夫か?」
それはショッピング。せっかくだし、ラスベガスお土産も買って帰りたい。
俺は零に相談する。
「ええ、別にいいんじゃないかしら。移動時間はゼロみたいなものだし、後でそのくらい取り戻せるでしょうし」
「そうか。分かった。ありがとな」
特に嫌な顔をするわけでもなく俺の我儘を許してくれる零に、俺はにこりと笑って再び感謝を告げた。
「そ、そんなの。こっちが付き合ってもらってるんだもの。お礼を言われるようなことじゃないわよ」
零は照れてプイッと顔を背けた。俺は特にすることもなかったので、テレビを見ながらしばらく零を話をして過ごした。
「ふわぁ。おはようお兄ちゃん」
「ん」
「おはよう。普人君」
七時半ごろになって目を覚まし始めた七海、シア、天音の三人。
そろそろ朝食と言うことで三人が身支度を済ませる間、俺はベランダで外の景色を眺めて過ごす。
中々いいホテルだけあって眺めもいい。
「ん?」
一瞬殺気のようなモノを感じてその視線の先を睨み返す。しかし、次の瞬間には消えてなくなってしまった。
「一体何だったんだろうな?」
「お兄ちゃん、準備できたよ」
「ああ、今行く」
首を傾げて考えてみるけど、七海が呼びに来たので思考を中断して朝食を食べに向うことにする。食べ終えると店が開き始め、買い物をするのにちょうどいい時間になった。
「昨日すっかりお土産を買うのを忘れたから、それを買ってからダンジョンに戻ろうと思うんだけど、それでいいか?」
「異議なーし!!」
「ん」
「勿論いいわよ」
確認を取っていなかった三人に尋ね、了承を得られたので、俺たちは荷物を仕舞ってホテルをチェックアウトした。
俺達はリュック型のマジックバッグのみを背負ってラスベガスにちなんだ商品を扱う店をはしごする。
「ん?」
「お兄ちゃん、どうかした?」
「いや、気のせいだったみたいだ」
一瞬、どこからか敵意を含む視線を感じた気がしたんだけど、どうやら気のせいだったらしく、不思議そうに尋ねる七海に首を振って再び買い物に専念した。
「ん?」
「ん?」
「いや、なんでもない」
数件程店をはしごした後、再び視線を感じたような気がした。今度はシアが不思議そうに俺を見つめたんだけど、俺は気にするなと首を振った。
「ん?」
さらに何度も何度も店から外に出るたびに、再び敵意を含む視線を感じた。
「どうかした?」
「いや、さっきから視線を感じるような気がするだよな。でもすぐに消えてしまうんだよ」
今度は天音が俺の様子が気になったらしく尋ねるので、正直にさっきから感じている視線の事を話す。
「昨日も結構人目を集めてたし、そのせいでしょ」
「それもそっか」
昨日はかなり人の目を集めていたし、天音の言葉に一理あると思った俺は気にしないことにした。
しかし、何かできるわけではないけど、敵意を含む者に関しては都度睨み返しておいた。
「むっ!!」
「これは!?」
しかし、そろそろ買い物を切り上げようかと思った時、明らかな敵意を持った沢山の視線が後方から感じられた。零も気づいたらしく、すぐに俺と零はバッと後ろを振り返ったんだけど、そこにはすでに敵意をもつような相手は誰もいなかった。
「今確かに俺達に敵意を持った人間がいたよな?」
「ええ、確かにそう感じたわ」
俺と同じように気づいた零に確認を取ると、同意するように首を縦に振る零。
「それじゃあ、一体そいつらはどこに行ったんだろうな?」
「全く分からないわ。気配もなくなってるし、追えそうもない」
疑問点を確認したけど、零にも全く分からないようだ。
「そっか。何はともあれ警戒しながら人気のない場所に移動しよう」
『了解』
意味が分からなさすぎるので俺達は警戒しながら移動することにした。しかし、結局懸念していたような事は何もないまま、人気のない場所に辿り着くことが出来た。
「それじゃあ、ダンジョンに戻ろう」
『おう!!』
結局視線の正体はわからないまま、俺達はラスベガスからグランドキャニオンにそこそこ近いダンジョンへと影転移で移動を果たした。
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