第272話 開戦(第三者視点)
「し、失礼します!!ぶ、部隊からの通信が途絶えました……」
「ば、馬鹿な……」
司令室ような一室の外から報告にきた男と、一番高い位置にある席に座る男が、あまりに信じられない事態に表情を失った。
アメリカ最強のSSSランク探索者であるカイザーをなんなく下し、周辺の山を穴だらけにした普人を捕まえようとしたカリフォルニア州政府だったが、その結果は悲惨なもの。
途中までは順調にターゲットに接近できたはずなのに、ターゲットまで残り五キロメートルを下回ったあたりで、なぜか攻撃されるのを知っていたかのようにターゲットに辿り着く前に何者かに襲撃されて部隊は壊滅し、現在生死不明の状態となっている。
彼らはラックが治療して人目につくところに投げ捨てておいたので、バッチリ生きているが、彼らにその情報が伝わるのはまだまだ先の事だ。
襲撃の瞬間を捉えていたカメラに映っていたのは影そのものが地面から抜け出してきたような生物らしきモノ。
ほとんどカメラに映ってはいなかったが、その影があっという間に精鋭の兵士たちを戦闘不能に追い込んでいき、最後は部隊長が倒れ、そのカメラは地面を映し出していた。
「これでは……最初から私達が攻撃を仕掛けるのを分かっていて待ち伏せしていたみたいではないか……」
全滅をした部隊の様子を見てそうでもなければ説明がつかないと、司令官が吐き捨て居るように呟く。
実際は何も知らないラックが勝手に主の睡眠の邪魔をされないように排除しただけなのだが、州政府がそれを知ることはない。
ただ、ラックによる撃退によってさらに普人に対する警戒度を上げることとなった。なぜなら遠隔操作なのかなんなのか分からないが、隠密に長けた諜報部隊を難なく発見し、一瞬で壊滅できるだけの戦力を持っている、と普人が見なされたからだ。
「ありえん。我らの計画が漏れるということはありえん……」
司令官は首を振って独りごちる。
それも当然だ。今回の作戦を知っていたのはごく一部の部下のみ。その部下たちが外に情報を漏らす可能性は限りなく低く、彼らが漏らしてしまったということはありえない。
相手も報告を聞く限り、ディスティニーランドで遊んでいる時は特に何かを警戒しているような気配はなく、純粋にテーマパークを楽しんでいたみたいだ。
それでは一体どうして情報が漏れてしまったのか……。
司令官は考えれば考えるほど分からなくなってしまった。
あるいは楽しんでいた様子さえも演技で、すでに自分に監視が付いていることに気付き、逆にこちらを監視していた可能性が頭をよぎったが、信じたくなかった司令官はその可能性を頭から消去した。
「司令官どうします……?手を引きますか?」
呆然としている司令官の思考を遮るように部下が尋ねる。
相手が余りにも得体が知れないため、手を引いた方がいいのではないか、という遠回しの言葉だ。
「バカ者!!これだけ被害を出しておいてこのまま引いたらとんだ笑いものだ!!もう四の五の言っている場合ではない。これはもはや戦争だ。我々も総力戦で行く。明日の早朝までに兵を装備を集められるだけ集めて出撃できる準備を進めろ!!ネバタに協力を依頼するのも忘れるな!!」
「はっ!!」
しかし、部下の願いが届くことは無く、司令官は机に手をバンとついて立ち上がり、体をわなわなと震わせながら言い放った。
軍としてはこのまま一方的にやられっぱなし、舐められっぱなしと言うわけにはいかないし、国防上さらに普人を見逃すわけにはいかなくなった。
司令官は州内の全戦力を持って普人を確保することに決める。
部下としては無駄死にはしたくなかったが、これも祖国のため、と、部下は敬礼して忙しく人に指示を出し始めた。
「絶対捕まえてみせるぞ。日本の秘密兵器。その秘密を暴かせてもらう」
独りごちる司令官の眼にはネットリとした炎が宿っていた。
数時間後。
集まった兵士は五百人以上。最初に出撃した兵士たちの十倍以上の人数が集結していた。勿論彼らは諜報能力に関しては零部隊の面々に及ばないものの、戦闘力というものに限れは上回る者も少なくない。
これだけの人数が揃えば、カイザーをあっさりと下した相手でも確保できると思えた。その上、ターゲットには侍られている女性がいることを知っているため、最悪人質などの卑怯な手を使うことも辞さない覚悟だ。
「諸君、よく集まってくれた!!我々の州は日本の秘密兵器によって未曽有の危機に晒されている。その者達によって零部隊が壊滅させられた。このまま易々と逃げられてしまっては、零部隊のメンバーに申し訳が立たない。これはもはや戦争である。我々の手でその元凶を確保し、いち早く平和を取り戻すために力を貸してくれ!!それでは作戦は各々の部隊の車両の中で説明を受けるように。以上だ。出発する」
『はっ!!』
司令官は空が白んできた訓練場に呼び出した兵士を集め、演説を打った。その後、集められた兵士は十人ごとの班を組んで車両に乗り込み、一路ラスベガスに向けて出発した。
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