第269話 スケスケ
「美味しい!!」
七海が口いっぱいに料理を詰め込んで美味しそうに食べている。シアは無言で食べているけど、アホ毛がハートを作っているので美味しいんだろうな。
「そうね、とっても美味しい」
「これで最後だから大盤振る舞いしてくれたのかもしれないわね」
天音と零も料理を口に入れた途端、頬を綻ばせて喜んでいる。
「確かに美味しいな。あの支配人、滅茶苦茶いいホテルを紹介してくれたな」
俺達は良い時間だったので、ホテル内のレストランで料理を頼み、丁度食べ始めたところだ。
店内はシックで落ち着いた雰囲気があり、それでいて非常にお洒落な空間。しかし、ドレスコードが求められるほどに格式高いわけじゃなく、それなりにカジュアルさがあった。
料理も皆の反応を見て分かるように滅茶苦茶美味しい。零の言う通り、出禁になって二度と利用できない代わりにいいホテルを取ってくれたのだろう。
「これで、一応アメリカで行けるところは全部行ったけど、満足したか?」
「うん、大・満・足!!」
「ん」
「私も住んでた時には行けなかったところに行けて楽しかったわ」
「私も恥ずかしい思いもしたけど、満足よ」
時間的にこれ以上の滞在は厳しいため、行ける場所が限定されてしまったけど、全員概ね満足したらしい。
それなら心置きなく次の国に行けるな。
「そうか。それじゃあ、明日になったらダンジョンで転移罠の動きを観察して次の国に行こう」
「は~い」
俺達は今後の予定を話しながらアメリカでの最後の晩餐に舌鼓を打った。
「それじゃあまた明日な」
「はい、失礼します」
「失礼します!!」
俺達は食事を終えると部屋に戻った。部屋に関しては支配人が気を利かせたのか勘違いしたのか分からないけど、ジャックとジョージと俺達で別れていた。
「ねぇ見てみて!!スケスケ!!」
「ん」
「そ、そうだな……」
ただ、問題はトイレとお風呂が外から丸見えになっていることだ。
「一緒に入る?」
「そうだね、お兄ちゃん、一緒に入ろうよ!!」
シアが無表情のまま首を傾げて俺に尋ねると、七海も便乗して俺の手を掴んでブンブンと引っ張る。
「いや入らないから!!」
「残念」
「えぇええええええ!?」
俺が断固拒否すると、シアはしょんぼり、七海は心底残念そうに叫び声をあげた。
シアと七海は羞恥心を一体どこに忘れてきてしまったんだ……。
「こ、これ、トイレに行くの恥ずかしいね……」
「シ、シャワー浴びるのもね……」
一方、天音と零は俺の方を目の端でチラチラと捉えながら顔を赤くして呟く。
そりゃまぁ、同性に見られるならまだしも異性である俺に見られる可能性があるというのは嫌すぎるよな。
むしろ二人は一般的な感覚を持っていてくれて俺はとても嬉しいよ。
「それじゃあ、俺は別の部屋を取ってもらうわ」
流石に俺も気まずいのでせっかくとってもらった支配人には悪いけど、フロントに連絡を入れてみた。
『大変申し訳ございませんが、シーズンの為、全室埋まっております』
しかし、フロントからは無情な答えが返ってきてしまった。
オーマイガッ!!
まぁ確かに夏休みシーズンだし、海外のシーズンとか知らないけど、埋まっていても仕方がないか……。
「悪い。他の部屋開いてないって言われたから、ジャックとジョージに言ってそっちに泊めてもらうわ」
俺は自分のせいで天音たちが落ち着かないのも嫌なので、ソファーくらいあるだろうからジャックとジョージの部屋に行くことにした。
「い、いや、そこまでしなくて良いわよ!!」
「そ、そうね!!流石にそこまでしてもらう必要はないわ!!たった一晩だけだもの」
しかし、天音たちが慌てて俺を引き留める。
ジャックとジョージの部屋に行かせてしまうのは流石に心苦しいらしい。
「いや、俺が見てしまうとは思わないのか?」
「ふふふ、普人君はそんなことする人じゃないわよ」
「そうよ、佐藤君は人が嫌なことをしたりしないわ」
俺を引き留める二人に不思議に思って尋ねると、二人とも一辺の疑いもない真っ直ぐな笑顔で俺に返事を返された。
結構邪まな心の持ち主だと思っているんだけど、一体いつの間にこんなに信頼度が上がっていたんだ?
「でも、嫌だろ?こんなスケスケのバスルームしかないのに、男の俺が一緒だ何んて」
「別に嫌じゃないわ。ただ恥ずかしいだけよ。だから部屋は移動しなくていいよ」
「そうそう。見られたら流石に嫌だけど、そうじゃないなら別に気にしないわ」
俺の確認に対してとても自然に答える二人。
嘘じゃなさそうだ。
「そうか?そこまで言うならお言葉に甘えるけど、バスルーム使う時は言ってくれよな?ベランダにでも行ってるから」
「分かってるわ」
「ええ、もちろんよ」
ここまで言われたら移動するとは言えないので、二人の気持ちを汲んで今日はそのまま同じ部屋に泊まることになった。
「いやぁ、たった三日間だったけど、いろいろあったなぁ」
「ウォンッ」
全員がシャワーを浴び、俺達は夜も遅くなったのでの寝ることにした。
―ドォオオンッ
七海が再び俺と寝たがったけど、今日も心を鬼にして一人で寝ることを選んだ。一人と言っても今日はラックと一緒だ。
七海は「いいもーん!!」と渋々と言った感じで七海は天音のベッドに潜り込んだ。
―ドォオオオオンッ
ラックは旅行中はそんなに外に出してやれないだろうからな。一緒に寝るくらいは良いよな。
―ドォオオオオオオンッ
「なんか外が騒がしいな?」
「ウォンッ」
「気にしなくて良いって?まぁそれもそうだな」
―ドォオオオオオオオオンッ
なんだか外がうるさい様な気がしたけど、ラックが気にしなくていいというので俺はそのまま意識を落とした。
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