第268話 出禁
俺達はジャックに案内され、まず換金所で魔石をお金に換金した。
「皆何がしたいんだ?」
「私、スロット!!」
「ルーレット」
「ポーカーでもしようかな」
「私は七海ちゃんについていくわね」
どうやら皆バラバラらしい。
それなら今は男が複数いるし、分かれてプレイするのもいいか。
「そうか。ジャックはシア。天音にはジョージがついて行ってくれ。俺は七海たちについていく」
『承知しました』
俺達はチップ交換が必要なシアと天音はその場に残り、俺達は三人でスロットに向かった。
「どれをやるんだ?」
「そんなの決まってるよ!!一番掛け金が高い奴!!」
「どれが一番高いんだ?」
「あれみたいね」
スロットにやってきた俺達は七海の言葉によって一番高い掛け金のスロットを回すことにした。
俺達がやってきたのはなんと一回一万円とかが軽く飛んでいく台だった。
まぁ普段使うことがないし、こんな時くらいは散在してもいいだろうと、皆数百万円相当の魔石を交換したから問題ないはず。
「それじゃあ、始めるか」
「うん!!」
「うふふ、なんだか悪いことしてるみたいね」
俺達は皆で並んでスロットを回し始めた。
うぉおおおお!!当たれ!!当たれ!!
俺は回りはじめたスロットに向かって祈りながらボタンを押していく。
「やったぁ!!早速当たったよ!!」
「私も!!」
「俺もだ」
幸先よく全員が一回目で辺りを揃えた。
しかし、それで終わりではなかった。
「ねぇお兄ちゃん、これ簡単すぎじゃない?」
「そ、そうね、なんだか毎回当たるわ」
「確かにそうだな」
数分後、俺達は回し始めてから一度たりとも外れていなかった。
「なんかボーナス揃ったんだけど!!」
「私も」
「俺もだ」
その上極めつけは全員が大当たりを引いてしまった。画面には、とんでもない金額が表示されていた。
全員がなんと数十億円という金額を当てていたのだ。
「すいません!!」
「えっとなんでしょうか?こ、これは!?しょ、少々お待ちください」
店員を呼ぶようにと書いてあったので、店員を呼ぶと、呼ばれた店員が慌てて別の人を呼びに行った。
数分後やってきたのは黒服の男たち。
「この人たちかね?」
「はい」
「君には下がっていいぞ」
「分かりました」
黒服のリーダーらしき男が店員に俺達の事を確認し、店員は通常業務に戻っていった。
黒服たちは俺達を取り囲む。
「お待たせしました。おめでとうございます。まさか三台揃って大当たりとは前代未聞です。ないとは思いますが、不正や不具合がなかったか確認させていただきます」
「どうぞ」
俺はおかしなことをしようとしたら、止められるように身構えて見守った。
「どうやら不正や不具合はないようですね。本当におめでとうございます。受け取りなどの手続きがございますので奥まで来ていただけますか?」
「分かりました」
俺達は店の奥のとても質の良さそうな部屋に案内され、身元の確認や支払い方法など手続きを行った。
「逆にお金増えちゃったね……」
「ホントね……」
「そうだな……」
俺達はたった数十分でさらに資産を増やしてしまい、呆然となっている。
「ん?あれはなんだ?」
俺達が奥から帰ってくると、何やら近くの一角が盛り上がっている。
「うぉおおおおおおおおお!!あの少女マジですげぇ!!」
「マジだぜ!!さっきから一点賭けで一回も外してねぇ!!一体どうなってんだ!?」
「とんでもねぇ。ラッキーガールが居たもんだぜ!!どこまで行けるか見ものだな」
「見た目も滅茶苦茶可愛いしな。幸運の女神そのものじゃないか?」
野次馬のように集まっている人達の声を聞く限り、女性が滅茶苦茶勝っているらしい。
「ちょっと見に行ってみるか」
「気になる!!」
「なんとなく予想がつく気も……いえ、気のせいね。行ってみましょ」
俺達は面白そうなので野次馬に加わることにして、人が集まっている所から少し横にズレた場所にやってきた。
「あっ」
「やっぱり……」
「お姉ちゃん!!」
席に座っていたのは青のドレスを着て、海の女神とでも言われたら頷いてしまいそうな程に可憐な少女シアだった。
俺と七海は驚いていたが、零はなんとなくわかっていたようだ。ここに来る前に何か呟いていたのはこのことだったらしい。
「分かってたのか」
「なんとなくそんな気がしたのよね。私達もあんな勝ち方したじゃない?」
「なるほどな。確かに」
確かに零の言う通りだ。
俺達三人が爆勝ちしたんだから、他のメンバーも同じようになっていても不思議じゃない。
それもこれも俺がツイてるからかなぁ。
いやぁ、それはないか。
「ん」
シアは一点賭けしかしないらしく、ディーラーがルーレットに球を入れて回した後、何の躊躇もなく、一つの場所に沢山のカラーチップを乗せていた。
全部載せていない所を見ると、あれが最高のベッド額なのかもしれない。
「ろ、6です」
「ん」
ディーラーの声が震えていた。それもそうだろう。今回もシアは当たっていたのだから。シアに支払いが始まる。
もうシアの所には山のようなカラーチップが積み重なっていた。周りからは歓声と口笛が鳴り響いた。
「お嬢さん、失礼。次からは私がお相手させていただいてもよろしいかな?」
「ん」
「おお、優しいお嬢さんだ。ここからは最高ベッド額の上限を無しにしましょう。いかがかな?」
「ん」
そこに老練なすさまじいオーラを感じさせる老紳士が現れて今までのディーラーと交代して再び戦いが始まった。
「ん」
「二十一。あなたの勝ちですな」
一回目シアの勝ち。
「ん」
「零。あなたの勝ちですな」
二回目シアの勝ち。老紳士に焦りの色が見え始める。
「ん」
「よ、四。あ、あなたの勝ちですな」
三回目シアの勝ち。老紳士はディーラーにも関わらず、かなり動揺しているのが分かった。
「ん」
「ぜ、零零。あ、あなたの……勝ち……ですな……あのこの辺りで終わりにしていたけないでしょうか?」
四回目シアの勝ち。ここでディーラーは心が折れてしまった。四戦全勝。店側の完全敗北である。
老紳士ディーラーはシアに止めてもらえるように頭を下げた。
おそらく若いディーラーでは手におえないと思って出てきたは良いけど、結局はシアには勝てなかったということだろう。
「ん」
「あ、ありがとうございます」
シアはディーラーの懇願を聞き入れた。老紳士はホッと胸を撫でおろした。
「カラーアップ」
「承知しております」
シアはカラーチップをカジノチップへと交換していた。一番高いオレンジチップが沢山シアがバッグの中に入れていた。
「ん」
ただ、シアは一枚だけオレンジチップを残し、ディーラーの前に差し出す。
「これは?」
「皆にお酒奢る」
「これでは多すぎますが?」
「チップも入れて何杯なら?」
「そうですね。4杯ほどはいけましょう」
「それで」
「承知しました」
シアの言葉の意味が分からなかったディーラーだけど、シアの言葉に意図することを理解し、カジノに訪れている客たちに酒をふるまう準備に取り掛かった。
「ひゅー!!さっすが嬢ちゃん!!あれだけ買ってるからな。太っ腹だぜ!!」
「ありがとう!!嬢ちゃん!!」
「他人の金で飲める酒程美味い物はないぜ!!」
周りに居た野次馬達がシアに歓声を飛ばす。
「ん」
シアは満足そうな顔を浮かべ、ジャックを引き連れて俺達の方にやってきた。
「大勝ちしてたな」
「ん。ふー君たちは?」
俺が声をかけると頷いて俺達の方の戦果を聞いてくるシア。
「俺達も大勝ちだった。な?」
「うん!!すんごいお金増えちゃった」
「私もよ」
「ん」
俺達がお互いに顔を見合わせながら嬉しそうに報告すると、シアも嬉しそうに頷いた。
「後は天音か」
「見に行こ!!」
「そうだな」
残っているのは天音。
大負けしている可能性もあるな、天音だし。
俺達はポーカーのテーブルの方に向かう。
「もう勘弁してください」
「えぇ~、もっとやりたいなぁ」
そこには頭を下げるディーラーに不満そうにつぶやく天音とそれを取り巻く野次馬が集まっていた。
「これ以上はどうか……」
「はぁ……分かったわ。これで終わりにするわね」
「ありがとうございます。ありがとうございます!!」
懇願するディーラーが余りに可哀そうになったので、天音はため息を吐いてプレイを止めることにする。天音の判断にディーラーは涙を流しながら頭を何度も下げていた。
「あら、普人君じゃない」
チップをカバンに入れてテーブルを立った天音は俺達を見つけて声をかけてきた。
「どうやら天音も勝ったらしいな」
「もってことは皆も勝ったのね」
「ああ。大勝ちした」
「ということはそろそろ来るわね」
俺達の返事に推測を述べる天音に同意するように頷くと、天音が顎の下に手を添えて唸りながら呟いた。
「ん?」
「あの、すみません」
「あ、はい」
意味するところが分からず首を傾げていると、後ろから声をかけられたので振り返る。そこにはバシッと決まったスーツに身を包んだ四十歳程度のオールバックの男が立っていた。
「私当カジノの支配人なのですが、大変申し訳ございませんが、あなた達を今後出入り禁止とさせていただきます。またチップの換金に関してましてはきちんと手続きをしますので、お手続きをしていただいた後、すぐにお帰り頂いてもいいでしょうか?」
「おい!!「止めろ」」
支配人からのまさかの出禁勧告。ジャックが食って掛かろうとするけど、俺はすぐに止めた。
ほんのちょっとだったけど、当たるか当たらないかみたいなワクワクドキドキ感を体験できて楽しめたし、その上大勝ちしたんだからこれ以上は望まない。
何より俺達五人に対する店の損害半端なかったと思うし。
「いいんだ」
俺達の運がよすぎたのが悪いんだから。
「お話が早くて助かります。その代わりと言っては何ですが、この辺りで最高のホテルをご用意しますので、なにとぞご容赦ください」
「分かった」
話がスムーズに進んだことでニッコリと笑う支配人。
俺達は天音とシアの手続きを終えた後、カジノを出て紹介されたホテルにチェックインした。
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