第241話 禁止!!

 シア達がまだ話をしている間に俺と新垣さんは森林ダンジョンに潜る。


「それじゃあ、何のモンスターから倒せばいいですか?」

「うーん、君が自由に倒していいよ。十種類倒せばいいから。それに踏破するつもりなんでしょ?先に進んだ方がいいだろうし」

「分かりました。それじゃあ、どんどん倒していきますね!!」

「えっ?」


 前回倒すモンスターの指示があったので今回もあるのかと思ったんだけど、俺の意志を汲んで自由にやらせてもらえるらしい。


 なんだかボーナスモンスターはまたでなくなってしまったみたいだし、今更森林ダンジョンのモンスターごときに手間取る俺じゃない。


 俺は新垣さんの好意に甘えて走り出す。森林ダンジョンはなかなか広いので歩いて探索していたんじゃ踏破できないからな。


 走りながら進んでいくのがちょうどいいと思う。


「おーい、ちょっと待ってくれぇ」


 俺が走り出して数秒後、後ろから新垣さんの声が聞こえた。


 ちょっと早く走り過ぎたらしい。

 新垣さんはまだCランクというのは変わっていないらしいし、もしかしたら裏試験の熟練度に関してまだ何も知らないのかもしれない。

 俺も意外と強くなったなぁ。熟練度は偉大だ。

 置いてったら評価できないだろうし、もう少しゆっくりでも踏破には問題ないか。


「ああ、すみません。急ぎ過ぎました」


 俺が立ち止まって新垣さんが来るのを待つ。


「はぁ……はぁ……相変わらずだね」

「ん?」

「いや、なんでもないよ。とりあえずもう少しゆっくり走ってくれると助かる」

「分かりました」


 追いついてきた新垣さんに苦笑いを浮かべたまま何か言われた気がしたんだけど、特に何でもなかったらしく、新垣さんの言う通り俺は走るスピードを落とした。


「ふぅ……これなら問題なく評価できるよ」

「ちょっと張り切り過ぎましたね。それじゃあ、モンスター倒していきますね」

「分かった」


 スピードを落とした俺に安堵の表情で汗を拭ったのを見て、俺はそのままのペースでモンスターを狩りながらダンジョンの階層を進んでいった。


「今日はこんな所ですかね?」

「はぁ……はぁ……そ、そうだね」


 それから八時間ほどかけて十三階まで辿り着いた俺はそろそろ野営をするかどうか尋ねると、新垣さんは頷いた。


「モンスターの討伐は問題ないですか?」

「いや、むしろどこに問題があると思ったのか教えて欲しいんだけど?」


 俺は野営の前に今日のモンスター討伐に尋ねたら逆に尋ね返されてしまった。


 全部何事もなく倒しちゃったし、相手の攻撃に当たってもいないから問題ないとは思う。


「ん~、特にないですかね」

「そうだよね、全部一発だもんね、ははははっ……」


 少し悩んでから答えると、新垣さんは遠くを見ながら乾いた笑みを浮かべた。


 熟練度上げてないせいで、少し疲れてしまったのかもしれない。

 もし許されるのなら新垣さんに美味しい料理を振舞ってあげようかな。


「それなら良かった。それじゃあ野営の準備しますね」


 俺は拡張バッグからいつも野営セットを取り出す。


「ス、ストォオオオオオップ」

「はい?どうしました?」


 もう何度目のやり取りか分からないけど、また止められてしまった。


 新垣さんまでダンキャン△を履修してないってのはどういうことなんだろう。


「い、いや、それ何?」

「ダンジョンキャンプ用の道具ですけど?」


 引き気味の笑いを浮かべた新垣さんが指をさして尋ねるので、俺は当然であるように答えた。


「え、それで野営するの?」

「不味いですかね?」


 いかにダンジョン内で快適に過ごすかというのが評価されるのであれば、これ以上の道具はないと思おうんだけど、違うのかな。


「いやぁ、ちょっと一般的な野営道具から外れすぎてるから、できれば普通のを使って欲しい。僕を貸すからさ」

「は、はぁ。分かりました。それじゃあ、今日は新垣さんにこのテント貸しますね」

「わ、悪いね」


 なんと、どうやら如何に快適な夜を過ごすかではなくて、皆と同じ道具を使っていかに野営するかと言う話だったらしい。


 俺は新垣さんのレジャーを借りて地面に敷き、特に何も考えずにそのまま横になった。新垣さんは俺のテントは使わず壁に寄り掛かって眠りだした。


 俺は特に気にせずに寝た。


「ふぁ~あ、良く寝た」

「お、おはよう。ぐっすり寝てたね」


 シートから起きて伸びをしていると、新垣さんが引きつった笑みを浮かべて俺に近づいてくる。周りにはいくつかの魔石が落ちていた。


 どうやら敵が近づいてきていたらしい。全部俺の最強のジャージの前に手も足も出ずにやられてしまったようだけどな。


「ええ、快眠でしたね」

「体はどこもおかしくない?」


 俺の返事に何かおかしなことを聞く新垣さん。


 快眠したんだからおかしくなるわけないんだけどな。


「はい、全く。いつも通り快調です」

「そ、そう。それならいいんだけど。それじゃあ、ここまで来たら後は最後まで行くのかな?」


 ラジオ体操をまねた動きをする俺に、新垣さんは今後の予定を尋ねる。


「そうですね、半分以上来てますから踏破しちゃった方が早いですよね」

「ま、まぁね……またあの地獄が始まるのか……」


 俺は新垣さんの言葉に同意して前の予定の通りに進むつもりだと返事をすると、荒凱紀さんはなんだか顔色を青くして乾いた笑みを浮かべていた。


―パァンッ


 俺は特に気にすることも無く、そのまま最終階まで進んでダンジョンボスを一撃で倒し、新垣さんと一緒に帰還魔法陣で外に出るのであった。

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