第136話 シスコンと変わりゆく日常

『本日十三時頃、緊急議会が開かれ、探索者総動員法が発令されました。これにより……』


 俺とアキは朝食を食べる際に流れているニュースで、探索者総動員法という法律が発令されたことを知った。


「これお前の妹ヤバくないか?」

「そうだな。この法律なら七海も対象になる」

「探索者適性ないといいな」

「そうだな」


 七海が探索者として覚醒していることを知っているのは、俺と母さん、シア、そして黒崎さんの四人だけだ。野良ダンジョンに行った事は母さん以外知る人物はいないから、誰かから漏れたとすれば、探索者としての特別なスキルが無い限りは黒崎さんからということになる。


 当然アキにも話していなので、彼は俺の妹が対象に入ることを純粋に心配してくれていた。


「それよりもこれから先の実地講習とか授業とかどうなるんだろうな」


 テレビを見ていたアキが頬杖をついてぼやく。


 法律が施行されたことで気になるのは今後の高校生活だ。日本各地でスタンピードが起こり、すでに一般人の生活にまで被害が出始めている。


 そんな状況では、授業だの、ダンジョン探索だの悠長に言っている場合じゃないと思う。


「まぁ、日本、それに世界が滅んでしまったら元も子もないし、やっぱりダンジョンに潜ってレベルを上げることを最優先にされるんじゃないか?スタンピードの対応に必要なのは戦闘能力だろうし」

「そうなるかぁ。はぁ……これから戦闘漬けの毎日かな」


 俺の答えに、アキはため息を吐いた後、ガックリと頭を落として呟いた。


「多分な」


 俺は同意するように頷く。


 スタンピードの対処に必要なのはダンジョン内をできるだけ安全に探索していく技術ではなく、純粋に敵を屠るための力。それを考えると、実地講習や授業などは一時的に休講となり、ダンジョンでひたすらレベルを上げさせられることになることが予想された。


 俺は気になったので七海に『LINNE』で彼女にメッセージを送る。


―ティリリティリリティリリンッ


 送ってから一分もしないうちにリズミカルな音楽が携帯から鳴り、七海から通話が来たことが分かった。


 俺はすぐに通話に出た。


「七海か?どうした?」

『うん、まだ学校に行ってないから通話の方が早いかなって』

「そうか。何かあったのか?」

『うん、なんだか黒崎さんがウチに法律の件を話しに来たから、黒崎さんに聞いたら、なんか探索者組合の指示で、どこかの機関に所属してこれからダンジョンに潜らなきゃいけなくなるみたい。一応LINNEの連絡先も交換したよ』


 七海が言うには法律が発令されてすぐに黒崎さんが実家に説明に来てくれたという。


 黒崎さんがわざわざ家に来てくれたのか。施行されたばかりだっていうのに滅茶苦茶速いな。やはりなんだかんだ彼女は良い人なのかもしれない。


 七海に優しい人に悪い人はいない。


 俺がちょっと黒崎さんの聞いてみて欲しいことを聞く。


「その指定機関の話なんだけどな。ウチの学校を指定したりできないか、聞いてくれるか?こっちの中学校に通う必要があるならその辺りの手続きのことも。家は俺が用意するし。なんなら母さんも一緒にこっちに来たらいい」

『え!?そしたらお兄ちゃんと一緒にいれるの?』


 俺の提案に七海が食い気味に喜色に溢れた声色で俺に尋ねる。


『許可が出るのならな』

『やったー!!獲るよ、獲る許可。絶対獲ってみせるからね!!だから待っててね、お兄ちゃん』


 俺が苦笑しつつ返事をすると、通話の向こう側で七海が布団の上で飛び上がって喜んでいる姿が見えた。


 そうやって俺の事を本当に必要としてくれてるのが分かるから猶更可愛がってしまうんだけどな。


「わかったわかった。母さんにちゃんと話しておけよ?」

『はーい』


―プツッ


 七海は早く母さんに許可を取りたくて仕方がないだろうと思い、話を終わらせて、通話を切った。


「……」

「なんだよ?」


 電話の終わった俺の顔を見て呆然とした顔を浮かべているアキに、訝し気に俺は尋ねる。


「なんつうかお前の面倒見の良さの片りんを見たっつうか」

「はぁ?妹を心配するのは兄として当然のことだろ?」

「いや、普通妹ってそんなに可愛いと思っている奴いないからな?」

「え?」


 アキが訳の分からないことを言うので反論したら、思いもかけない事実を突きつけられた。俺は思わず、間抜けな声を漏らしてしまった。


 い、妹が可愛くないだと?

 そんなことがあり得るのか!?


「大体生意気とか我がままとか思ってる奴の方が多いぞ」

「そ、その生意気な所とかわがままな所が可愛いんじゃないか」


 頬杖をついてぼやくように言うアキ。


 妹が生意気だったり、我儘だったりするのは甘えてる証拠じゃないか。可愛くない理由が俺には分からない。


「こいつ、もうだめだ」


 アキは肩をガックリと堕とし、額を押さえて首を振った。


 なぜか呆れらてしまったらしい。


「はぁ……そんなことより学校に行こうぜ。今後の話もあるかもしれない」

「まぁそうだな」


 顔を起こしたアキの提案に、俺も同意して朝食の食器などをそそくさと片付け、食堂を後にした。

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