第077話 家に(女)友達連れてって良い?

『もしもし、おにーちゃん?』

「ああ、七海か?どうした?」


 今日は七海からトークアプリ『LINNE』で通話が掛かってきたので俺は光の速さで応答する。


 妹の電話より大事な用事があるだろうか、いやない。


『ゴールデンウィークって何か予定あるの?』

「いや、何もないぞ。どうしたんだ?」


 そういえばもうすぐゴールデンウィークだったか。ダンジョンに夢中になっていて忘れていた。


『うちに……帰ってこないの……?』

「そういえばそうか。特に予定もないし帰るか」


 妹が寂しそうな声色でそんなことを言うもんだから速攻で帰省を決めた。


 どうせ帰らなくてもダンジョンに潜ってるだけだろうし、妹よりも優先すべき事項はないので問題ないはずだ。


『やったぁ!!楽しみに待ってるね!!』

「了解」

『それでね、クラスメイトのみっちゃんがね』

「うんうん」


 俺の帰省の約束を取りつけて安堵した七海は、入学した中学での出来事を楽しそうに話し始める。俺はウンウンと頷きながら七海の話を相槌を打ちながら聞き続けた。


「七海、そろそろ寝た方がいいんじゃないか?」

『あ、いっけなーい。話しすぎちゃった。おやすみ、おにーちゃん』

「ああ、お休み。お腹出して寝るなよ」

『もう!!そんなに子供じゃないよ!!じゃあね!!』


―プツッ


 元々通話がかかってきた時間も遅かったし、そろそろ二十四時を回りそうだったので通話を終わらせた。


「ふぅ……狩るか」


 どうやらすでに七海に告ってきた男子生徒が何人もいたらしい。まだ入学して数週間だというのに随分と元気じゃないか。七海が可愛いのは分かるけど、俺の妹に手を出そうとするならまず俺を倒してもらわないとな!!


「くくくくくくくっ……」


 思わず低い含み笑いが漏れる。


「クゥンッ」


 ベッドの横を見ると、腹を見せて尻尾を股の間に挟んで怯えている犬がいた。


 ラックだった。


 おっと殺気が漏れてしまっていたらしい。Eランク探索者の俺ごときの殺気に怯えるなんてホント憶病で可愛いんだからな、ラックは。


「お~、ごめんごめん。ヨシヨシ」


 俺はベッドを下りてラックを抱きしめるようにして撫で繰り回した。


「ウォウォン」


 しばらく撫でていると元気が出てきたのか、頭を擦り付けるようにして小さく鳴く。


「それじゃあ寝るか」

「ウォンッ」


 ラックが元気になったようなので俺とラックは眠りについた。


 翌日。


「私も行きたい」

「は?」


 シアに帰省のことを話すと、なぜかついてきたいと言い出す彼女。


「いや、どうして?」

「一緒じゃないと鍛えてもらえない」

「一人でも行けるよね?」

「非効率的」

「でもあんまりいけないかもよ」

「いい」


 どうしても譲らない彼女にどうしたものかと悩む。しかし、彼女には俺の弱みを握られているし、断るわけにもいかないか、と思い直した。


「泊まる場所は?」

「ホテル探す」

「うち田舎だから家の近くに泊まる場所ないぞ」

「うーん」


 ホテルがないと聞いて悩むシア。


 放っておくとどこで何をするか分からないからな。

 仕方がないから最後まで面倒見るか……。


「はぁ……分かった。母さんと妹に聞いてみる。それで二人が良いって言ったら家に泊めるよ」

「ありがと」


 俺はすぐに母さんと妹に『LINNE』で帰省に友達を連れて行って泊めてもいいかと確認すると、


『いいわよ』

『OK』


 という返事が返ってきた。


 我ながら寛容な家族である。


「ウチの家族もオッケーだって」

「ふーくんの家族も優しい」


 俺が家族から了承を得られたことをシアに伝えると彼女は微かにほほ笑みを浮かべて頬を染めた。


「け、やってらんねぇぜ!!」


 隣で俺たちのやり取りを眺めていたアキが悪態を着く。


「なんだよ……」

「俺は男どもとダンジョン合宿だってのに、お前は彼女を連れて里帰りかぁ!?」


 俺が半眼になって尋ねると、アキは俺に詰めよって責め立てる。


 顔が近すぎるんだよ。


「いやだから俺とシアはそういう関係じゃないって言ってんだろ?」

「それで普通実家に連れて帰るか?」


 俺がいつものようにシアとの関係を否定すると、訝し気に俺に尋ねる。


 だってしょうがないだろ!!

 俺の人生がかかってんだよ!!


 それに彼女とどうにかなることはないと思うし、彼女も俺にそんな風に思われたら迷惑だと思う。彼女は俺の上司だからな。もちろん、学校一可愛い女の子と一緒にいること自体は、健全な男子高校生として悪い気はしないけどさ。


「それには事情があるんだよ、な?」

「ん」


 俺は叫びたいのを隠してシアに同意を求め、彼女は短く返事をして頷いた。


「さいですか……はぁ。俺も女の子とイチャイチャしたい……」


 俺とシアのやり取りに何かを感じたのか机に突っ伏してしまった。


「まぁアキは放っておいて、二十六日に出発するから準備だけしておいてくれ。後、新幹線の予約は俺の方でしておくからその費用は後で支払いしてくれな」

「ん」


 こうして俺とシアは一緒に俺の実家に帰ることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る