第074話 便利がアクセラレートする犬

 二階のモンスターを一掃した俺は帰りのバスに乗って今日のダンジョン攻略を振り返る。


 この時間に帰る人は少なく、全体がまばらに埋まっている程度。俺は一番後ろの一番端に陣取り、窓から外をボンヤリと眺めている。


 そういえば、Dランクのモンスターの魔石滅茶苦茶デカかったな。朱島ダンジョンの超ボーナス魔石よりも大きかったぞ?


 通常のDランクの魔石は直径二・五センチ程度のはずだ。

 

 ということはあの二階層はボーナスエリアになってたってことか?まさか初めて行ったDランクダンジョンでもボーナスエリアを引き当てるとか、俺ってどれだけツイているんだろうか。


「超ボーナス魔石よりデカいとか一体どれほどの価値になるか気になるけど、流石に換金するわけにもいかんよなぁ」


 ボーナス魔石でさえBランク相当の十万、その上の超ボーナス魔石がAランク相当の百万。この魔石はそのさらに上、つまりSランク相当の価値があるんじゃないだろうか。


「まさか……一千万!?」


 Sランク相当の魔石ともなれば、莫大なエネルギーを内包しているため、魔石電力会社で物凄い世帯数の電力を一日分発生させることができる。


 だからこそそれくらいの値段になるらしいんだけど、色々怖くて換金する気になれないなこれ。マジでヤバい連中に目を付けられそうだ。


 こういうヤバいものはラックの影の中に隠しておくに限るな。


「ラック、ちゃんと守っておいてくれよ?」

「ウォンッ」


 ラックに小声で話しかけると任せておけとばかりに自信の籠った声で俺だけに聞こえるように鳴く。


 ビクビクしながら帰路を進んだけど、幸い誰にも絡まれることなく、寮に辿り着くことが出来た。


「ふぅ、これは心臓によくないな」


 俺は十億単位の資産を持ち歩いているということにドキドキしていた。


 流石に超ボーナス魔石が数百個、ボーナス魔石が千個以上、そして超ボーナス魔石を超える、超ウルトラボーナス魔石を数百個。


 どう考えてもヤバい額の資産だ。こんなモノをずっと持ち歩いているなんて小心者の俺には怖すぎる。


「うーん、持ち歩くんじゃなくてどこかに仕舞っておければいいんだけど……」

「ウォンッ」


 俺が悩んでいると、ラックが俺に頭を寄せる。


「なんだ?自分に任せろって?」

「ウォンッ」


 ラックの方を見ると、頷きながら鳴いて、室内でずっと影が出来ている隅の壁に移動すると、影が四角く伸びて扉のような形に広がった。


 ラックはその壁の中に入り込んでいき、頭を出して俺を呼ぶ。


 俺は部屋の隅に移動して壁の中入り込んだ。


 中は光もないのに視界が確保されていて、その広さはテニスコートくらい二面分くらいはあった。


「ウォンッ」

「ここに持ち歩きたくない物を置いて行ったらいいって?お前はなんて凄い奴なんだ!!」

「ウォオオオオオンッ」


 俺はラックの能力の便利さに舌を巻く。思わずとびかかってわしゃわしゃと撫でまわした。ラックも嬉しそうに吠える。


 吠える?


「こら、ラック。うるさくしちゃダメだって言っただろ?」

「クゥンッ」


 室内で吠えないように指示していたのに、大きめに吠えたので一旦体を離して叱るとラックは反論する。


「何?この中は防音だから大丈夫だって?最初からそう言ってくれよ。悪かったな、怒って」

「ウォンッ」

「なんだ、気にしてないって?お前は優しい奴だな」


 俺は再びラックをわしゃわしゃと撫でてやる。


 暫くモフモフを堪能し終えると、俺はラックの影から持ち歩くのに不要なアイテムを倉庫内に出していく。


「結構あったな」

「ウォンッ」


 主に魔石やドロップアイテムの類だ。特に必要ないものは全部ここに取り出した。


「必要になったら取りにくればいいか」

「ウォンッ」


 ラックも同意するように鳴いた。


「そういえば、ここのセキュリティはどうなってるんだ?」

「ウォンッ」

「なるほど。ラックとその主である俺しか入ってこれないってか。ラック、お前優秀過ぎるぞ!!」


 便利なだけじゃなく、セキュリティも万全と来た。俺はラックの余りの便利さに、追加でラックのモフモフに顔をうずめた。

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