第061話 ダンキャン△

 ダンジョン探索部の予定だけど、木曜日は勉強会で金曜日は休みという都合のいい日程だった。 


 そして今日は金曜日。二人で朱島ダンジョンの奥に向かう日だ。


「まずは買い物しに行こう」

「ん」


 二泊三日の予定だ。


「俺みたいな男と同じ場所で寝ても大丈夫なの?」と確認してみたが、「ん」の一言で終わった。


 もちろん俺は何もする気はないけど、一応常識として特に恋人でもない男女が一夜を共にするのは女性からしたら大問題と思うんだけど、彼女はそうは思っていないらしい。


 俺の弱みを握っているので何もできない、と思っているのかもしれない。そんなものなくても何もしないけど、それがあるからより何もしないという意味では間違ってはいない。


 俺たちは泊りがけに必要な装備を買いにショッピングモールに向かい、シアは主に宿泊に必要な物を、俺はそういう装備はこの前購入していたので、食料や消耗品を購入することにして店の前に待ち合わせにした。


「それは流石に買いすぎじゃないか?」

「?」


 シアの姿を認識した瞬間、俺は思わず問いかけた。しかし、シアは俺の言っている意味が分からないらしく、首を傾げるばかりだ。


 店の前で会ったシアは、両手に大きな袋を持ち、背中には買ったばかりの容量拡張機能が付いたバカでかいリュックが背負われていた。明らかに一般的な女性なら絶対に持つことが出来ないであろう量の荷物を抱えていた。


 流石にこの場でラックの能力を使うのは人目もあるので避けておきたい。


「その荷物持つよ」

「ん」


 とりあえず両手に持っている荷物を俺が持ち、朱島ダンジョンの方に向かって歩き出した。


 周囲に人の気配がなくなり、俺達を見ている視線も感じなくなると、遮蔽物が多い場所を通って、ラックの力を使って全部影の中に収納してあげた。


 俺より強い探索者に見られているかもしれないけど、流石に俺みたいな底辺を監視する理由はないし、もうこの際見られてバレても仕方ないと思うことにした。スキルだとでも言っておけば、ラックの存在は隠せるだろう。


 俺はスキルなんて持ってないんだけどな!!


 相変わらず外の警備の厳しさは変わらないので、いつもの要領でダンジョン内に侵入する。


「全階層をゆっくり探索しながら進むのと、最速で奥に向かうのどっちがいい?」

「後」


 時間は有限だ。シアに方針を確認すると予想通りの答えが返ってくる。


「最速ね」

「ん」

「了解」


 やはり鍛えてというだけあって強いモンスターと戦いたいんだろうな。正直なんでDランクダンジョンじゃなくてEランクダンジョンにこだわるのか分からないけど。


 俺より早くEランク探索者になっていたシアにとって、Eランクの強いモンスターなんてシアにしてみれば大したことはないと思う。あんまり気にしないで進んでも大丈夫だろう。


「それじゃあ、最短距離で下に向かっていこう」

「ん」

「俺達から離れすぎないならラックは適当に暴れてていいぞ?」

「ウォンッ!!」


 俺たちはボーナスモンスターをバッサバッサと倒して次々と階層を進んでいく。ラックは俺たちの邪魔にならない程度の場所でモンスター狩りをしているようだ。


 気づけばものの数時間で七階層まで到達していた。この分なら明日には最下層に到達できるかもしれない。


「ん~、今の所モンスターの強さに変化はないな」

「残念」


 シアも変わり映えしないボーナスモンスターに、アホ毛と共にしゅんとしている。


「まぁ今日はこの辺で休もう」

「ん」


 少し開けた場所に出たので今日はそこでテントを張ってキャンプをすることにした。美味い料理を食べれば多少気もまぎれるはず。


「今日は鍋にしようと思う!!」

「ん!!」

「ウォンッ」

 

 今日の料理はあまり好き嫌いをしなさそうな白菜と豚肉のミルフィーユ鍋。レシピはもちろんネットで見た。普段家族と暮らしているから自炊なんてしないので、出来るだけ簡単そうなものにした。


 ただ、俺達は影があるので持っていける装備に制限がないため、普通の人たちのキャンプよりも自由度が高く、贅沢をすることが出来る。


 今回も食材を切る台も嵩張るにも関わらずに持ってきているので、そこで二人で食材を切断し、カセットコンロとガスボンベもあるので、簡単に火をつけて料理をすることが出来た。


 鍋は分量が足りるかどうかわからなかったので、一番デカいやつを二つ買ってきて、俺とシア用と、ラック用に分けて二つ分作ることにした。


「それじゃあいただきます!!」

「いただきます」

「ウォンッ!!」


 料理が出来るとラックはそのまま、俺はシアによそった後、自身の器に盛りつけて、いざ実食。


『……』


 三人はまず一口食べ、その後、全員黙々と勢いよくバクバクと食べ始めた。俺とシアはすぐに器を空にし、ラックは熱いにも関わらず、構うことなく鍋のままバクバクと食べている。


『ふぅ……美味い……おかわり』


 俺とシアの声が被る。


「ははははっ。盛り付けるな」

「ん……」


 恥ずかし気に返事をして器を出してくるシアに大盛でよそってやり、また自分の分も同じように盛り付ける。


 気づけばあっという間に鍋が空になってしまった。隣でラックも鍋を空にしてしまっていた。


「ふふふふっ。これで終わりではないのだよ、諸君!!」

『~!?』


 そう具材を食べ終わったら終わりというのが鍋じゃない。

 締めを食べてこそ鍋は終わる。


 俺の言葉に料理がなくなって少し落ち込んで俯いていた二人が、バッと顔を上げた。シアはアホ毛が、ラックは尻尾がその喜びを表している。


「鍋には締めというものがある。今日の締めはうどんだ!!」


 俺はラックの影からうどんの袋取り出して掲げた。


「おお~」

「ウォオオオンッ」


 シアは抑揚のない声で、ラックは興奮気味に声を上げる。


 早速残った出汁の中にうどんをしこたま投入し、薬味を加えて、火が通るまで煮たら完成。その後は心行くまでうどんを楽しんだ。


「もう食べれない」

「俺もだ」

「ウォンウォンッ」


 俺とシアは横になってお腹を擦るが、ラックはもっと食べたそうにしている。流石にあまり食べ過ぎるとデブ犬になるのでここで終わりだ。


「もう終わりだぞ」

「クゥンッ……」


 そんな悲しそうな顔と声を出しても駄目なものは駄目だ。

 あまり甘やかしすぎるのも良くない。

 飼うって決めたんだからちゃんと躾もしないとな。


「お風呂に入るか」

「お風呂?」


 飯を食べ終わってしばらくすると、風呂に入ることにした。


 しかし、その言葉にシアが不思議そうに俺に問いかける。


 そういえばそうか。普通キャンプでお風呂なんて入らないもんな。


「ああ、ラックの影の中にお湯が収納できないかとやってみたら出来たんだ。しかもずっと温かいまま。それを使えば影の中で風呂に入れる」

「ラック凄い」


 俺が説明すると、シアはラックの方を見て無表情で褒める。


「ホント役に立つんだよ、こいつは」

「ウォンッ」


 俺が隣にいるラックの頭を撫でると、ラックは誇らしげに胸を張った。


「見張りは?」

「ウォンッ」

「ラックがしてくれるってよ。モンスターだけあって睡眠も本来いらないらしい」

「ホント便利」

「だろ?」

「私も従魔欲しい」


 シアは羨ましそうにラックを見るが、ラックはやらん。


 それから俺たちはラックに見守られながら、各々が張った非常に高価で質のいいテントの中でぬくぬくと過ごした。

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