第058話 試験官は百面相

「はぁ、パーティ決めの日はちょこっと潜れたのになぁ。金曜までは基礎知識の勉強みたいだぜ」


 学校に行く途中、アキがぼやくように言う。


「探索者になってすぐ死ぬ、なんてことになるよりはいいだろ」

「まぁな。しかもパーティ全員男だったしよ……」


 そうなんだよ、こいつパーティが全員男になったんだ。

 ハーレムハーレム言ってるからだ。


「それは……どんまい……」

「はぁ……それに比べてお前は……」


 俺が肩にポンと手を置いて慰めると、アキは恨めしそうな目で俺を見つめる。


「俺がどうしたって?」

「お前はあの超絶美少女アレクシアちゃんとパーティ組んでるじゃねぇかよ!!」

「いやあれはな……「きぃいいいいい!!羨ましい!!」」


 俺が反論しようとするが、アキが狂ったように叫んだ。ザワリと他の登校中の生徒がこちらを見る。


 全くもう困ったやつだ。


 大体アレクシアとはそんな羨ましがられるような関係じゃない。

 パーティを組んで淡々とモンスターを狩っているだけだ。

 しかも、後ろめたい事と弱みを握られて、断るという選択肢はなかった。


 そんな状態のパーティのどこが羨ましいんだ!!


「それはまぁ分かったから、さっさと教室にいくぞ」

「きぃいいいいいいい!!」


 狂ったアキを連れて俺は教室へと向かった。


「今日も勉強会……」

「アキから聞いた。最初は仕方ないだろ」

「ん……」

「お前はいいよな。推薦じゃないし」

「俺ってツイてるからな」


 シアと話していると、アキが会話に混ざる。


 推薦枠が強制参加なのに対して、一般の特待生枠は基本的に探索者適性をもっていない人間がほとんどだ。その中で俺は探索者適性をもっている、というのはやはりツイていた、という他ない。


 レベルもスキルも能力値もない、という点を除けばな!!


 なんだか忘れかけていたのに思い出して少しイライラした。


「あ、そういえば言うの忘れてたけど、今日はランクアップ試験を受けに行ってくるわ」

「マジかよ、うらやましいな」


 俺がうっかり伝え忘れていたこと話すと、アキが羨ましそうにこちらを見る。


「いや、お前達は誕生日が来なくても成績でEランクとかDランク潜れるし。誕生日が来たら普通にダンジョン潜ってすぐにランクアップできるだろ」

「まぁな」


 お前らの方が羨ましいだろ。


 誕生日前に学校の管理するダンジョンに潜れるし、そこで入念に準備した後、外のダンジョンに行ってすぐに活躍できる。そしてなによりレベルとスキルと能力値がある!!


 羨ましい!!羨ましい!!羨ましい!!羨ましい!!羨ましい!!羨ましい!!羨ましい!!羨ましい!!羨ましい!!羨ましい!!羨ましい!!羨ましい!!羨ましい!!羨ましい!!羨ましい!!羨ましい!!羨ましい!!


 くそぅ、なんで俺にはないんだ……。


「はぁ……まぁいい。それじゃあ俺は行ってくる。時間もないからな」

「ん。頑張って」


 俺は頭を振って一度ため息をついて気持ちを落ち着かせると、シアに見送られて教室を出る。


「くぅ~、女の子に見送られるシチュとか青春かよ!!」


 後ろでアキがなんか言っていたけど、聞かなかったことにした。


「今日の試験官を担当するCランク探索者の新垣です。よろしく」

「あ、はい。佐藤普人です。よろしくお願いします」


 俺が試験が行われるダンジョンについて出張所の組合職員にカードを見せると、担当の探索者がやってきてお互いに挨拶を行った。


 大学生くらいの男性で、優しそうな顔をしており、身なりもしっかり整えていて好感が持てる人だ。


「ははははっ。初めての試験、緊張するよね。でも大丈夫。FランクからEランクに上がるのは難しくないから」


 新垣さんが気さくに話しかけてくれる。

 俺の緊張をほぐそうとしてくれているのかもしれない。


「そうなんですか?」

「うん。だってこれからダンジョンに潜って何匹かモンスターを倒してもらうだけだからね」

「なるほど。それなら確かにどうにかなりそうです」


 新垣さんの話を聞いて試験と聞いて少し委縮していたけど、かなり心が楽になった。


 いい先輩探索者だ。


「でしょ。それじゃあダンジョンに向かうよ?」

「はい、お願いします」


 俺は新垣さんに連れられて以前土日にやってきた浪岡ダンジョンに入り込んだ。ここは俺が初めて潜ったFランクダンジョンと同じく洞窟型だ。


「それじゃあ、最初はオニムカデだ」

「あっ。知ってます。頭にオニみたいな模様のある一メートルくらいのムカデですよね」


 何回か倒したことがある。最初のモンスターは大丈夫そうだな。


「そうそう。早速探そうか」

「あ、はい。ここから百メートル先にいるみたいですね」

「え、ホント?」

「はい、行きましょう」

「え、あ、うん」


 俺はオニムカデに向かって歩いていく。


 新垣さんがなんだか百面相していたけど、俺はそそくさと先へ進んだ。


「それじゃあ、倒してみてね」

「はい」


 オニムカデとの距離がかなり近くなると、新垣さんから指示があったので、俺は一瞬で懐に入り込んで頭を撃ち抜いた。


―パァンッ


 いつものようにモンスターがはじけ飛び、魔石がぽとりと落ちた。


「新垣さん終わりました」

「……」


 俺が新垣さんの居る場所に戻って彼に声を掛けたんだけど、返事がない。


「新垣さん!!」

「え、あ、うん。確かに魔石が落ちてる。問題なく倒してるね、はははは」


 なんだかぼうっとしていた新垣さんを強めに呼びかけると、オニムカデが居た場所に行って魔石を拾い、乾いた笑みを浮かべいる。


 一体どうしたんだろう?

 まぁ倒してるなら問題ないよね。


「良かったです。次のモンスターはなんですか?」

「えっと、ビッグバットっていう蝙蝠型のモンスターだよ」


 そいつも倒した覚えがあるな。

 名前の通りかなり大きな蝙蝠だ。


「了解です。そのモンスターはあっちの方角五十六メートルの場所にいますね」

「え?」

「どうしました?」


 俺がモンスターの方を指さすと、新垣さんが呆けたような顔で俺を見てくるので首を傾げる。


 なんかおかしなことでもあったのかな?


「あ、いやいや、問題ないよ」

「そうですか?それじゃあ行きましょう」


 慌てるように手を体の前でバタバタと振る新垣さん。


 何か忘れ物でもしたのかもれないけど、そういうのは何も見なかったことにするのが紳士の嗜みでしょう。


「う、うん、そうだね」


 俺が先を促すと、新垣さんも慌ててついてきた。それから三十分程で俺は問題なく十匹ほどのモンスター倒すことができた。倒すたびに新垣さんは顔を様々な表情に変えていた。


「どうでしょう新垣さん、俺は合格できますか?」

「えっと、うん、まぁ大丈夫じゃないかな?」

「そうですか、やった!!」


 俺が心配して尋ねると、なんだか歯切れが悪かったけど、新垣さんからお墨付きを頂いた。


 喜んで出張所に帰る俺と何やらブツブツと呟く新垣さん。新垣さんの言葉通り俺は何事もなく合格することができた。


 試験中も一発で倒せるモンスターしか出てこないとか俺ってやっぱりラッキーだな。この際ラッキーマンって名乗ってもいいかもしれない。


 レベルとかのことを棚に上げて、そんな風に調子に乗りながら寮へと帰った。

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