第018話 寮母さんはSランク

「おお、ここが学生寮?滅茶苦茶良くない?」


 学生寮と言えば古いというイメージがあったんだけど、この学校の寮は全く違った。滅茶苦茶新しくて、新築のアパートと言われてもおかしくないくらいピカピカ。玄関も自動ドアになっている。


「そりゃあ天下の神ノ宮学園だぜ?当然施設も良いに決まってるじゃないか」


 何おかしなことを言っているんだと言いたげな表情で俺の顔を見るアキ。


「ここってそんなに有名なの?」

「お前そんなことも知らずにここに入学してきたのか?」

「うん、ここが一番俺の条件に合ってたから」

「そんな動機ここに来るのお前だけだと思うぞ?」


 素で驚く俺に、なぜかアキに呆れるように顔をされる。


 俺が何をしたって言うんだよ?


「いいか?ここは日本でも屈指のエリート校なんだよ。新東大学に毎年何人も送り出している程のな。それと探索者を優遇し、積極的に推薦でとっている学校でもある。この学校に来るのは日本のトップを狙う奴らか、探索者のどっちかなんだよ」

「そ、そうなんだ……」


 マジか……。


 評判とか全然調べなかった。


 新東大学って日本の大学のトップじゃん。そこまでエリートの学校だとは思わなかった。それに探索者を推薦で獲ってることも。だからあんなに探索者が多いのか、納得。


 同じ中学の他の連中がほぼ来ないくらい離れている場所にある。

 必要とされる学力がある程度高く、知っている人間が来る可能性が低い。

 ダンジョンが複数あり、有名ダンジョンも多い。


 以上の条件に合っていたので、ここでいいかと決めてしまった。


 先生にもお前の学力なら問題ないだろうと言われていたし、特に何も言われていなかったからな。その上特待生制度もあるみたいだったし。


 それにしても学校自体のことをあまりに調べなさ過ぎた。高校デビューにとらわれ過ぎて視野が滅茶苦茶狭くなっていたのかもしれない。


 それはともかく、設備がしっかりしているなら嬉しい誤算だ。綺麗でしっかりとした部屋があれば、それだけプライベートの質も上がるという事。休息がしっかりできればパフォーマンスが上がるのだから大事だ。


普人ふひとは一体なんでこの学校にきたんだ?」

「いや、ちょっと実家から離れた学校に来てみたくてな」

「ふーん、普人って変わってんな?」


 俺は何気ないアキの質問に言いよどみながら答えた。


 だって言えるわけないだろ?


 高校デビューするために地元から離れた学校に来ました!!


 なんて。


 しかも失敗しました、とか恥ずかしすぎて絶対に誰にも言えない秘密だ。


 絶対墓まで持っていく!!


「ま、まぁとにかく早く中に入ろうぜ?」

「そうだな。荷物の整理とかあるしな」


 俺は話を打ち切って佐倉を引っ張って寮の中へと足を踏み入れた。


「おかえりなさいませ、旦那様」


 中に入るなり、メイド服を着た20代半ばくらいのおっとりした女性が綺麗なお辞儀で俺たちを出迎えてくれた。お辞儀と同時に開いた胸元から覗く谷間に眼を奪われる。


 デ、デカい!!


 その大きさは目を見張るものがある。寮母というだけあってその母性の大きさはSランクだった。


 いや、そんなことよりも寮にメイドってなんなんだ?


「あ、霞さんただいま」

「霞さん?」

「彼女はこの寮の寮母さんだよ」


 だからなんで寮母さんがメイド服を着ているんだ?


「そうなんだ。初めまして、佐藤普人と申します。これからお世話になります」

「あらあら、これはご丁寧なご挨拶を頂きまして……。私はこの寮の寮母をさせていただいております。橘霞たちばなかすみと申します。こちらこそ宜しくお願い致します」


 俺は頭の中の疑問をひとまず横に置いて挨拶をすると、再び霞さんが深々とお辞儀をした。


 渓谷再臨、眼福です。隣でアキもガン見しながら顎に手を当ててウンウンと頷いている。何に頷いているのかは知らないけど。


 おばちゃんじゃないのは男子にとっては良いことだけど、これだけ若い人が近くに居るとなると、間違いを起こす男子もいるんじゃないかなぁ。


 俺はよく学校側がこの人を採用したなぁ、と思ってしまった。


「まずこの寮の説明をさせていただきます」

「お願いします」

「では……」


 この寮は、基本的に午前七時と午後七時に一階の奥にある食堂で食事が提供され、昼も弁当を持たせてくれる。勿論予め伝えておけば、別の時間に食べることも出来る。


 そして食堂の向かい側に浴場や洗濯機があり、なんと二十四時間入ることが出来るらしい。とてもありがたい。


 門限は特に設定されていない。探索者がよくダンジョンに潜って帰ってこないこともあるからだ。ただ、次の日が学校なら、授業に影響がない範囲で潜るように気を付けてほしいとのことだった。


 あまりにその範囲を逸脱すると、ダンジョンの攻略を一定期間禁止されることもありえるらしい。これは気を付けておく必要があると思う。


「それでは、佐藤様のお部屋にご案内いたします」

「ああ、はい。でも佐藤様は止めてもらえませんか?」

「それは恐れ多いことでございます。私は卑しいメイドですのでそんなことはとてもとても……」


 流石に様付けは落ち着かないと思ってお願いしたんだけど、やたらと芝居掛かった仕草で固辞されてしまった。


 それにしても霞さんは自分のことを卑しいって言ってるけど、今の時代にメイドと主人の身分差なんてあんまり関係ないよね?ね?


「はぁ……まぁわかりました」

「普人、あきらめろ。俺も頑張ったんだけど、何もできなかった」


 俺が呆れていると、アキが俺の肩に後ろから手を置いて首を振る。


 残念イケメンだけど、べらべら喋るタイプのアキがそういうならかなり頑張ったんだろう。それでも霞さんの時代錯誤なメイドスタイルをどうにかすることはできなかったらしい。少し遠い目をしている。


 俺はアキの方に振り向くと、彼と同じように何とも言えない表情を浮かべてお互いに頷きあった。


「それでは佐藤様、参りましょう」

「はい、わかりました」


 様付けで落ち着いたまま、俺は霞さんの案内の下、自室へと向かった。


「それでは何かありましたら、何なりとお申し付けください」

「わかりました」

「それと、本日十八時から入寮生の歓迎会が行われますので、ジャージに着替えて食堂にお集まりください。遅れることのないようお気をつけくださいませ」

「了解です」


 案内を終えた霞さんはそそくさと仕事へと戻っていった。


 なんでジャージなんだろうな?

 気にするだけ無駄か。


「隣同士だな」

「そうなんだ。こっちでもよろしくな」

「ああよろしく」


 改めてアキと挨拶し終えた後、俺は室内を観察する。六畳ほどの部屋で一通りの家具は揃っており、後は届いている荷物を開封して片づけるだけで良さそうだ。


「さてと、やりますか」


 俺は早速作業に取り掛かった。

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