最終話 「お前彼氏いるだろ」
翌日、いつもより朝早く起きてしまった俺は椎川よりも先に教室に到着していた。
昨日色々あったせいでぐっすり眠ることができず寝不足の俺は机に突っ伏しながら目を擦っていた。
それに……。
もしかして告白失敗したんじゃねぇか⁉︎
そう考えると眠ることなんてできるはずがなかった。
調子に乗って流れに任せて告白したはいいものの、椎川が俺のことを全く好きじゃない可能性も十分にあり得る。
ただ俺と同じ様な経験をして同じ様な嘘をついていたと言うだけで俺が勝手に仲間意識を抱いていただけだったのだろうか。
そうだよな、やっぱりこれ振られる流れだよな……。俺のことが好きで付き合いたいと思うのならその場で返事するのが普通もんな……。
だとしたら俺、無理矢理抱きついたりとかキスしたりとか……。最低な男じゃねえか。
そんなことを考え悶えながら机に頭を何度も叩きつけながらも教室の入り口を気にしていると、椎川が教室に入ってきて俺は平然を装い椎川に挨拶をした。
「おはよ」
「おはーす。なんかいつもより早いね新谷ん」
いつも通り能天気な雰囲気で話している椎川だが、俺がいつもより早く教室に着いたのは椎川のせいだからな!?
いっそ振るならその場で振られた方が何倍マシだったことか……。
「あ、ああ。なんというか、気分転換というか」
「あーなんかそれ気持ちわかるよ。色々あったから心機一転がんばろう‼︎ みたいなね」
心機一転てそれもう俺のことを振って新しい人生を歩もうってことだよな? 振る前に宣告されるとか地獄なんですけど?
もう椎川の顔見れない……。
「そ、そうだろ」
「あ、そんなことより新谷ん。私と付き合ってくれない?」
あまりにも自然にそう言うもんだから聞き間違いかとも思い一瞬言葉を失ったが、聞き慣れたフレーズを耳にした俺の頭の中には椎川とのこれまでの日常が思い浮かんでいた。
俺たちが深くかかわるようになったのはこうして椎川が鬱陶しいくらい嘘の告白をしてきたからだ。
自分たちを守るための嘘が、結局はお互いを遠ざけてしまっていた形にはなったものの、その嘘が無ければ椎川とこうして繋がることはできなかったと思う。
だからと言って嘘をついていいとは思わないが、それでもきっと必要な嘘ってのも存在するのだろう。
それを伝えるために、実証するために椎川は原点に立ち戻ろうと思ったのだろう。
それなら、俺も今まで通りこう返事をするべきなのだろう。
「何言ってんだよ。お前彼氏いるだろ」
「そうだね。今まではいないはずの彼氏がいたんだけど今はフリーだから」
「そうなのか。ちなみに俺も今までいないはずの彼女がいたけど今はフリーだぞ」
「そうなんだ。私たち、似たもの同士だね」
「そうだな。……これからよろしく頼む」
「ふふっ。こちらこそっ」
この世は嘘で満ち溢れている。
誰もが自分を守るために嘘をつくし、嘘に嘘を塗り重ねることも少なくない。
必要な嘘があるってことも理解している。
実際俺たちは嘘のおかげで繋がることができたのだから。
それでも俺は、この先どんな状況になっても嘘をつくことはないだろう。
結局は嘘ではなく、全てを真実で話せる様になった時にこそ、目の前には本当の世界が広がるのではないだろうか。
彼女がいると嘘をつくことで謳歌できていた俺の人生を、隣席のイケメン彼氏持ち美少女が何の気遣いもなく破壊しようとしてくる 穂村大樹(ほむら だいじゅ) @homhom_d
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