第236話 伝説の下水道
旧王都に到着する。快適すぎる馬車とはもうお別れだ。
ついこの前まで王都だった大都会は、ぼくの記憶そのままに活気に満ちあふれていた。
遷都なぞ関係ないと言わんばかりに。
「ていうか、昔より賑わってるような……?」
「この街はトーコが女王になった後、急成長したからな」
「そうなんですか?」
「これはトーコの受け売りだが、旧王都を訪れた観光客数は二年で倍増しているそうだ。商人たちも各国から押し寄せているし、国家間の取引において我が国の貨幣を使う割合が急速に増えている。あと数年も経てば、基軸通貨の地位は盤石らしい」
「凄いですね。なんでそんなことに?」
「それは当然、我が国が大陸一の強大国になったからさ」
「ほほう。つまりトーコさんの政治手腕ですね」
さすがトーコさんは有能女王だと感心していると、ツバキが口を挟んできた。
「いやいや、一番の元凶は
「ええ……?」
なんでそうなるのかさっぱり分からない。
「どう考えても当然なのだ。なにしろ
「さすがにそれは言い過ぎなような……?」
「そんなことないのだ。天帝まで攻めてきたことがその証拠なのだ」
そういえば東の異大陸の天帝って、オリハルコン目当てで攻め込んできたんだったね。あんまり憶えてないけど。
それにしてもツバキは大げさだな、と思いながらスズハを見ると。
「さすがツバキさんですね、東の大陸からやって来ただけあってよく勉強されてます! ねえユズリハさん?」
「全くだな。トーコも遷都の理由の一つに、王都の土地が足りないからと言っていたし。それもこれも、どこかの英雄的な活躍をしながら無自覚な相棒のせいだろう」
「えええ……?」
絶対ぼくは関係ないと思うけどなあ。
****
サクラギ公爵邸に荷物を置いた後、みんなで街を見物することになった。
遠くから来た人間優先ということで、まずは東の異大陸から来たツバキの要望を聞く。
以前住んでいたぼくやスズハ、ユズリハさんは案内役だ。
「それでツバキ、見たいところある?」
「取りあえず、王城のあった場所に行ってみたいのだ」
「了解」
そこはぼくも行きたかったんだよね。
ということで、みんなで出発。
街の超一等地に建っているサクラギ公爵邸と王城跡は、それほど距離が離れていない。
なので馬車を使わず歩いて向かう。
貴族の邸宅が建ち並ぶ通りは、人通りが無くて静かだ。
「ところでお主、王城は完全に取り壊されたのだ?」
「メイドさんに聞いた話だと、一部だけ残ってるみたいだよ」
サクラギ公爵家の優秀なメイド曰く。
王城は取り壊されたが、その一区画は王家の歴史を展示する史料館として残っており、大変オススメでなので是非見に行くべきだと言われていた。
なのでツバキの提案は、まさに渡りに船だったのだ。
「サクラギ家のメイドさん情報だと、観光客にも一番人気なんだって」
「ほへー、そうなのだ」
そして、メイドさん情報という言葉に反応した少女が一人。
言うまでもなくメイドのカナデだ。
「むむむ……いちりゅうメイドたるもの、観光あんないもできなくては……!」
「そんなのいいよ。だいいちカナデはここに住んでるわけでもないのに、観光案内なんてできっこないでしょ?」
「しょぼん……カナデにできるのは、王家のひみつ通路のあんないくらい……」
「絶対それって国家最高機密なヤツだよねえ!?」
「カナデのメイドさんじょうほう、まだまだみじゅく……!」
「カナデは一体どこへ向かおうとしてるのかな!?」
恐るべきメイドさん情報網の実力に震撼しつつ、ぼくたちは貴族用の住宅街を抜けて、やがて王城跡へと辿り着く。
閑静な貴族街とは違って商人や観光客も多く、賑わいを見せていた。
そして、肝心の王城跡はというと。
「こりゃあ跡形もないなあ」
「全面的に工事中なのだ」
まあそうだよね、と思いつつ。
道行く観光客の声に耳を澄ませてみると、どうやら観光スポットは下水道の放流口と、メイドさんも言っていた王家の史料館のようで。
「……見どころが下水道?」
「まあ取りあえず行ってみるのだ」
みんなでゾロゾロ歩いて行くと、その先にやたら人だかりがあった。
言わばお立ち台のように突き出ている場所があり、その先に下水道の放流口が見える。
つまりアレは、下水道を見物するために作られた展望デッキだろう。
けれど人の数がもの凄い。
例えるなら美術館に超有名な名画が飾ってあって、みんなそこを見ているような感じ。
下水道なんか見てなにが楽しいのか。
それにしても、なぜだか見覚えがある気もするけれど──?
「立て看板があったのだ」
「なんて書いてあるの?」
「えっとなのだ……この場所は、あの
「ぶ────────っ!!」
「わっ、きちゃないのだ」
思わず噴き出してしまったぼくの後ろでは、スズハとユズリハさんがなぜだかとっても悔しそうな表情で。
「なっ、なんてことでしょう……! あの時もしわたしも一緒に下水道へ潜っていたら、伝説の兄妹カップルとして後世まで名を刻んでいたということですかっ……!?」
「なんということだっ……! やはりわたしも一緒に、下水に潜るべきだったのだっ……そうすれば今ごろ、大陸最強の相棒コンビとして名を轟かせていたはず……!!」
二人が小声で何事呟いてたけど、イヤな予感がしたので聞き返さなかった。
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