Day15 おやつ

 職場の給湯室に置き菓子がある。普通の市販のお菓子が、これまた普通のプラスチックかごに入っていて、「ご自由にどうぞ」と印字されたテープが貼られているというものだ。

 先日「これを設置、補充しているのが誰なのかわからない」ということに、営業所の皆が話し合って気づいた。お局さんが他支所の社員にまで確認したらしいけど、誰も知らないという。

 出処が不明なまま、お菓子を食べるだけは食べていたのだ。なんだか気持ち悪いね、という話になり、でも仕事中にちょっとつまむものがあるといいよね……という意見も出る。そこで、お局さんが「私が新しいの作っていい?」と申し出てくれ、皆が賛同した。

 古い方は勝手に撤去してしまうのもなんだか厭で、結局給湯室に置きっぱなしになっていた。誰も食べていないはずなのにお菓子が時々足されていて、でも実際誰がやっているのかはわからない。決して広くはない営業所内なのに、誰も足されるところを見たことがないのだ。

 減ることがないので古い置き菓子は増え続け、カゴから溢れてしまってもまだその上に積まれるという状態で、でも相変わらず誰がいつ足しているのかはわからない。そもそも営業所に入ってくるひとなんて、社員とパートさん含む八人のほかは、たまに来る本社の社員とプリンターの営業さんくらいだ。犯人候補になるような怪しい人物が見当たらないのだ。

 おまけにお菓子が溢れるにつれて、誰もいないはずのオフィスの隅で延々紙をめくるような音が聞こえたり、突然バンと大きな音がして、見たらオフィス内すべてのロッカーの扉が一瞬で全開になっていたり、故障しているはずの内線電話が急に鳴り響いたりといった怪現象が起こり始めた。その上新しい置き菓子が、きちんとパッケージされているにも関わらず一日で湿気ってしまうようになったので、営業所一同の協議の結果、今までどおり古い置き菓子を食べるようになった。

 気味が悪くないといえば嘘だけど、お菓子自体は普通の、どこにでも売っている既製品に間違いない。今までだって散々食べていたのに何の害もなかったわけだから、皆半ば業務の一環というような顔をしておやつを食べている。ノルマは一人一日一個。実際これで怪現象は収まったのだから、これがまぁ、ここの正しい形というか、そういうものなんだと思う。そういうことにしている。


 ちなみに、今年入ってきた新入社員はこの件について何も知らされていない。

 置き菓子は遠慮せず食べてね、と言ったら本当に遠慮せずに食べてくれているので、とても助かっている。

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