Day14 裏腹

 日曜日の午後、ルームメイトのチカが裏腹が痛いと言い出した。腹じゃなくて裏腹の方だ。まぁこいつ裏腹酷使してるからなぁ、とあたしは思う。彼女が絶対病院はいやだというので、あたしはドラッグストアに鎮痛剤を買いにいき、ついでにホットミルクなんかも飲むかなと思って、牛乳も一緒にレジに持っていった。

 その間に部屋でのたうち回っていたチカの裏腹は、日頃の酷使が祟ってとうとう破裂してしまった。そんなわけで「見た目とは裏腹に実は優しいひと」だった彼女は、いまや単に「優しいひと」になってしまっている。

 今までのチカは目つきが悪くて話下手で、ひどくとっつきにくい子だった。誰かに話しかけられたときは、じろっと見つめ返して低い声で返事をする。もちろんそれは悪気があるわけじゃなく、単に元々の顔立ちと彼女の恥ずかしがりやな性格がそうさせていただけなのだが、そういう「これまでのチカ」は、裏腹と共にどこかに行ってしまった。言動だけじゃなく、顔つきも変わってしまって、今ではトレードマークだった三白眼までもが、親しみやすい黒目がちのお目々になっている。

 なんということだ。

 普通にフレンドリーな雰囲気になったチカには友だちが増えた。本人も毎日楽しそうにニコニコしている。なのであたしも「よかったじゃん、破裂して」などと言っているけれど、本心は複雑だ。

 チカが実は優しい子だってことは、ルームメイトのあたしだけが知っていればいいことなんだって、そう思っていたのに。

 なのに、チカは「普通にみんなに優しいチカ」になってしまった。寂しい。何でか腹が立ってもいるし、新しい友だちに嫉妬してもいる。


 表面上はニコニコしているけれど、その実内心クソデカ感情で煮えくり返りそうなあたしは、最近裏腹を酷使しすぎているのだろう。時々左脇のあたりがひどく痛む。

 これが破裂してしまったらどうなるのかなんて、あまり考えたくない。

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