Day8 金木犀

 金木犀が本当に苦手なんですよね。実家にあったんですけどあれ、うるさいから。

 だってほら、花の時期になるとあれ、すごいでしょう。花が咲くと、あの小さくて黄色い一個一個がめちゃくちゃ喋るの。夜はさすがに静かですけど、日のある間はずーっと喋ってるんですよね。

 何でかよその金木犀は喋らなくって、植物っぽく静かでいいんですけど、なんでうちのだけは喋るのかなって。あれ喋らないのがデフォなんですよね? それがずっと不思議だったんですけど、まぁ、とにかくうちにあったのは実際うるさかったんで。

 あれ、若い女の子たちがぺちゃくちゃお喋りしてるのにほんと似てるんですよね。だから人間の女の子のお喋りも苦手になっちゃって、中高の間、女ともだちなんか全然できなかったな。

 え? 金木犀と? お話なんかできるわけないじゃないですか。あんなの何言ってるかわからないでしょ。声が高すぎて。

 まぁでも、たまに聞き取れることもあったかな。「人間の風上にも置けない」って言ってたんですよ、それが。人間の風上にも置けない、だよね〜っ、キャハハハハッって感じ。

 それがなんかもう、みんながこっちを見て喋ってるみたいで。何千何万ってありそうなあの黄色いちっちゃい花が、全部こっちを見て。

 まぁもう実家ないし、金木犀も全部なくなっちゃったんですけどね。火事になったの。ぜーんぶ燃やしちゃったんですよ。だからもう実家のあいつらはいいんですけど、金木犀って苦手だな、やっぱり。


 だからほんと、あなたのおうちには行きたくないんですよね。悪いけど。

 おたくの金木犀、すごくうるさいので。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る